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1話 別れの予感
「んー。もう少し可愛く撮れないのかな?もう一枚ね」
柏木美咲は不満げに小さな口を尖らせてそういうと、ピンク色のケースに入ったスマホを再び僕の手に置いた。
これで何度目だろう。かれこれここにきて30分は経っている気がする。
僕からしてみれば液晶画面に映る彼女の姿はどれも可愛らしく見え、自分にはプロカメラマンの才能があるのではないかと錯覚してしまうほどの出来栄えだ。
しかし、大きな桜の木の下で、満面の笑みでポーズをとる彼女はというと、その笑顔とは裏腹にまだまだ納得のいかないご様子だ。
そもそもこんなことになったのは、「せっかく春が来たんだから花見に行きたい」という彼女たっての要望を叶えるためのものだった。
僕からしたら大好きな彼女と一緒にいることが出来る、彼女は文句の言わない優秀な?カメラマンをタダで雇える、まさにWINWINな関係と言えるだろう。
高校三年生になったばかりの僕らは、始業式後、その足で学校から一番近い丘の頂上にある大きな桜の木まで向かい今に至る。
彼女はいわゆるSNS映えというものを気にしている人種で、この写真もSNSに投稿するために撮っているらしい。
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