神使

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 間に合ったのだ――。 彼はもちろんのこと、このぼくも同じだった。  神使は主の名代ではあるが、所詮は元ヒトだった。 ぼくは病を得て、もうそう長くはない。 ぼくが()ねば、再び新たな神使が選ばれてしまう。  それを知っていても、――分かっていてもこうして又彼と逢えたことがうれしかった。 堪らなく、うれしかった。  ぼくの名前を呼ぶ彼の声に応える声を、ぼくはもう持ち合わせていない。 彼の顔を頬を撫でる手ももう、ヒレへと変じてしまっている。 ただ、かつて彼と何度も睦み合い愛し合った箇所だけは残されていた。 それは神使として必要だったから。 供儀から受けた精を主へと捧げるために用いられる、大事な『神具』だったから。  ぼくは彼から、供儀から確かに精を受け取った。 一滴残らずに吸い尽くした。 彼の体がユラリゆらりゆっくりと沈んでいくのは、その証しだった。 精が、生がすっかりと抜け落ちてしまっているのだ。  ぼくは未だヒトのものである足の指を使い、彼の手の縛めを解いた。 結わかれたまま底に横たわるのはあまりにも可哀想だと思った。  彼の両腕は水の中を揺蕩(たゆた)い――、そして目隠しを外した! 「⁉」  
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