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「ん」
とだけ答え、壁にタバコを押し付けて火を消す。地面には俺を含めた何人もの捨てた吸殻が散らばっている。
「今日もひとりだけ?」
「そ。俺は一日一人限定でサービスするくらいでちょうどいいんだよ」
「こんな仕事しておいて欲のないヤツ。羨ましいよ」
嫌味だな、とわかったが本当に傷付けようとして言っているわけじゃない。むしろこのユージという仕事仲間は、唯一俺にとても良くしてくれている。
ユージと入れ替わりで室内へ戻り、狭い厨房を抜けて店へと顔を出すと、カウンターにいた店長がイヤな顔をした。
大体半年前、急にやって来た俺に仕事をくれた店長だが、俺の仕事の仕方が気に入らないのだ。
繁華街の路地の一本裏にあるこの店は、一階は普通のゲイバーとして営業している。が、ここで働くキャストは、まあそういうサービスをするのが本業と言える。
一階で酒を出して適当に話をして、気に入られたら二階の個室へ案内する。相手をした客から貰った報酬の半分がキャストの懐にはいる。客は帰りに店長に代金を払うが、それはキャストが金額をちょろまかすことを防ぐためだ。
と、店長は言うが、ちょろまかしているのは店長の方だとキャストのほとんどが知ってる。
正直に言って違法な店なのだが、こんなところで働く人間にはそれ相応の理由がある。さっきのユージだって、多額の借金を抱えていると聞いたことがあった。
どれほど底辺の扱いを受けていても、ここには他に行くアテのない人間がほとんどで、他の仕事(もちろん性的なサービスのある)を掛け持ちしているヤツだっている。
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