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半年後、再会
★
熱い夏がやって来た。
狭く暗い路地は、放置されたゴミが散乱していて嫌な匂いがする。飲食店の裏口がツラを付き合わせている狭い路地だ。排気口から漏れ出る油の匂いがまたそれらを増長して、俺は一気に気分が悪くなった。
その狭い路地で、ビルのひび割れたコンクリートの壁に寄りかかってタバコに火をつける。
ふうとひとつ息を吐き出せば、もやもやした白い煙が視界を覆って空へと立ち昇っていった。
しばらく漂う煙の向こう、手を伸ばせば届きそうなところを、よく見知った金髪の人影がゆらゆらと揺らめいている気がして、でもそれは気のせいだと自分に言い聞かせる。
アルコールとニコチンに侵された己の頭が見せた幻覚だ。
わかっているのに、勝手に期待してしまうのもまた己自身だ。
などとそれっぽく語っているけれど、実際にはそれほど病んでいるというわけではない。
あいかわらず自分に無頓着で、気が付いたらタバコばかり吸っていて食事を忘れたり、酒の飲み過ぎで吐いたり、そのせいでもともと細かった体がさらに痩せたりはしたけれど。
俺は概ね、元気に生きているといえるだろう。
仕事の合間、時々思い出すのは燦々と降り注ぐ太陽の下、キラキラと輝く海で泳ぐアイツの姿だったり、目を覚ますとニコニコと笑顔を浮かべ、飽きることなく俺の寝顔を見ていたアイツの姿だったけれど、俺はこれでも上手く生きている。
「修哉、休憩交代」
ガチャリと薄いグレーのドアが開く。室内から明るい茶髪の、俺と同年代の男が顔を出した。
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