1.声の道をたどって

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1.声の道をたどって

『右へ行け』  耳元で声がして思わず左耳を塞ぐ。声を無視して真っ直ぐ進む。目的地にむけて直進して予定通り左に曲がる。  ほら、やっぱり普通に着いた。  私の耳元で誰かが囁くのは昔からのこと。その声はいつも同じ落ち着いた男性の声。いわゆるイケボというやつ。ただ、一方的にちょくちょく囁かれるものだから、どちらかというとイラつきが大きい。地元を離れて聞こえなくなっていたから忘れていたけど、地元に戻ったら再発した。  昔この声が何なのか親に聞いたら、怪訝な顔で神様かなんかじゃないのと言われた。どうせ幻聴かなにかの類。そんなわけで私は声を無視して生活していた。だって従っても何も起こらないから。その時々でたまたま声に従ったりすることもあるけど従わないことが大半。でもそれで何か幸不幸が訪れることもなかった。  声はいつも方向を指示している。 『上に行け』  ほらまた。左耳を塞ぐ。そもそもここは河原で上なんでないし行きようがない。空を飛べとでも言うのだろうか。だんだん声が不快に感じてきて、ぞわりと肌が粟立つようにまでなった。今日は特に回数が多い。久しぶりだからだろうか。  今日は中学の同窓会だ。はがきが舞い込んで、懐かしいと思って『参加』に丸を付けて投函した。私は親の転勤について高校からこの町を出たから、本当に久しぶりの郷里の集まり。会場は川原でBBQ。肉が焼ける音と香り。けれども何人かの仲が良かった友人も地元同士で繋がり合っていて、縁の薄い私はその繋がりから少し浮いていた。
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