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「いや、覚えてないね。どこ?」
「藩から京に向けてまっすぐ歩くと山を抜けなければなりませんね。その山を越えた山間にある一番初めの村です」
「あー、どうだったかな。他には?」
「姉上が村人をたくさん斬った村ですよ」
「はいはい、思い出した。尾曾尾村って言うのか。それで?」
「姉上が一年前に村人を斬ったせいで野盗に襲われることになりました。そのせいで多くの人が死んだのです」
「ふうん、そう」
「どうして斬ったのですか?」
「またそれか。いちいち覚えてないよ理由なんて。そんな気がしたからじゃないの」
「姉上が斬りたいのは武士だけだと思っていました。現に途中の宿を借りた農民や猟師などは斬らなかったではないですか」
「じゃあそんな気がしなかったからだろうね。お前だって、日がな一日中食べ続けたり、眠り続けたりはしないだろう?」
「私もその村に寄ることになりました。道中を共にした攘夷志士達と共にです」
「新次郎、お前あんなつまらない連中の一味になったのかい?」
りんは窘めるように言う。
猟師の言っていた通り、りんは攘夷志士に対して快くは思っていないようだった。
「たまさか一緒になっただけです。その者達は宇野殿を訪ねて藩に立ち寄ったと言っていました」
「宇野? 誰だったかな?」
「師範代ですよ」
「はいはい宇野ね。あれの知り合いだったのか。妙な縁だね」
「そしてその者達と野盗達の戦いになったのです」
「まるで戦だね」
「両方共に全滅しました。そして野盗達の死を志士に願った娘もです」
「へえ」
「姉上が村人を、宇野殿を斬ったから起こったのですよ」
「そう? お前がそういうならそうなのかもね」
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