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「やめてよー。そんな、キュンとくるような話ぃー・・・」
くねくねと下手な芝居であざとい動きをして、タカさんはぼくの肩を人差し指でつつく。
今の彼にはふざけるだけの心の余裕がある。今ならばただのありきたりにも見えるふざけた言動に、感動に近い思いも混ざりつつ、内心ほっと胸を撫で下ろしながらささやかな平和を噛み締める。
「本気ですし。歩さん以外ではホントに君だけでしたよ」
ところで、いつになったらここ(喫煙ルーム)から出られるのだろう。自分にもこうして、彼を前に呑気に考える余裕がある。なんの計略もない会話のなんと清々しいことか。
にこりと笑みを浮かべる己の口が、うっかり繕っていない考えを当たり前のように滑らせる。
「利害関係とかそんなの一切考慮せず、ただ自分の気持ちの赴くままに、君を何とかして絶望的な状況から救い出そうと必死になって・・・・・・あれ?」
「んー? どうかしたー?」
「そうだ」
外に連れ出そうと彼の手首を掴んだ右手が熱を帯び、空いていた左手が間抜けな表情だったであろう自分の顔の下半分を覆い隠す。
「歩さんに感じるこの気持ち、初めてじゃないんだ」
続いて、口角が自然と締りのない形になって緩む。
ずっと前から、意味が分からないまま、確かに感じてた。
「どうしちゃったのー? おーい?」
「あーそっか。なるほど。そうだったんだ・・・」
「大丈夫? え、と、なんか、頭こんがらがっちゃった?」
「うん。合点がいった。そういう事だったんだ・・・」
左手でシャツの襟をただしながら、無抵抗に連れ出されている最中だった彼が、眉を八の字にして困惑していた。
「壱(はじめ)」
指の隙間からおどけたように笑って見せて、心配は要らないと。クスリと、はっきり微笑んで彼の戸惑いがちな焦げ茶色の両目に視線を合わせる。
「ぼくって、君のこと愛してたんですね」
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