3 導石《しるべいし》

3/9
74人が本棚に入れています
本棚に追加
/365ページ
「うーん、もうちょっと好意的な反応を、期待してたんだけど……、ま、いっか。気に入ったんなら、あとで食べな。全部あげるから」 「えっ、こんなにたくさん、いらない」 カリンは手にずっしりくる重みにぎょっとして、すかさず包みを戻そうとした。 これが貴重な品なのは、小袋の布地の上等さだけでなんとなくわかる。いったいどうやって手に入れたものなんだろう。 「いらない、じゃないだろ」アヤトはすねたように目を細めると、「こういう時は『(うれ)しい、アヤト。遠慮なく頂くわ』でいいんだ。ほら言ってみ?」 「いやよ。なんで、私がそんな……」 「あーあ、まったく。素直じゃないなぁ」 アヤトは肩をすくめた。 「本当は、贈り物もらって(うれ)しいくせに」 「……そんなことない」 「じゃあさ。カリンは(うれ)しくないって、面と向かって今、俺に言えるの?」 青年の大きな両手が、当然のようにカリンの手を包んだ。 「ああ、わかった、君は要領が悪いんだ」アヤトは苦笑いすると「こういう珍しい土産は、手に入れたらここぞとばかりに、周りの宮女に配っておくんだよ。そしたら君の株も、上がるだろ?」 「……私の株なんて、上がってどうするの」 カリンがまぶたをしばたくと、アヤトは今度こそ(ふん)(がい)したようだった。 「はあ? なにそのやせ()(まん)。聞いたぞ。カリンってば、東雲(しののめ)塔って書殿をねぐらにして、本ばかり読んでいるんだって? だから『氷姫』なんてあだ名までつけられちゃうんだよ」 「……好きで、ねぐらにしてるんじゃないわ。私はあの塔に、囚われてるのよ!」 「囚われてる? 本当に? 飛天帝は、あくまで君を保護している立場なんだろ?」 「……」
/365ページ

最初のコメントを投稿しよう!