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「うーん、もうちょっと好意的な反応を、期待してたんだけど……、ま、いっか。気に入ったんなら、あとで食べな。全部あげるから」
「えっ、こんなにたくさん、いらない」
カリンは手にずっしりくる重みにぎょっとして、すかさず包みを戻そうとした。
これが貴重な品なのは、小袋の布地の上等さだけでなんとなくわかる。いったいどうやって手に入れたものなんだろう。
「いらない、じゃないだろ」アヤトはすねたように目を細めると、「こういう時は『嬉しい、アヤト。遠慮なく頂くわ』でいいんだ。ほら言ってみ?」
「いやよ。なんで、私がそんな……」
「あーあ、まったく。素直じゃないなぁ」
アヤトは肩をすくめた。
「本当は、贈り物もらって嬉しいくせに」
「……そんなことない」
「じゃあさ。カリンは嬉しくないって、面と向かって今、俺に言えるの?」
青年の大きな両手が、当然のようにカリンの手を包んだ。
「ああ、わかった、君は要領が悪いんだ」アヤトは苦笑いすると「こういう珍しい土産は、手に入れたらここぞとばかりに、周りの宮女に配っておくんだよ。そしたら君の株も、上がるだろ?」
「……私の株なんて、上がってどうするの」
カリンがまぶたをしばたくと、アヤトは今度こそ憤慨したようだった。
「はあ? なにそのやせ我慢。聞いたぞ。カリンってば、東雲塔って書殿をねぐらにして、本ばかり読んでいるんだって? だから『氷姫』なんてあだ名までつけられちゃうんだよ」
「……好きで、ねぐらにしてるんじゃないわ。私はあの塔に、囚われてるのよ!」
「囚われてる? 本当に? 飛天帝は、あくまで君を保護している立場なんだろ?」
「……」
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