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1話 手首はどこへ消えた?
結婚式は大安を選べ。
葬儀は友引を避けろ。
いまどき六曜に踊らされているのは冠婚葬祭業界くらいのものだが、それを生業にする者たちはおかげで繁閑を見極められるのだから、多少カビ臭くても重宝していくほかない。
今日は友引前。
明日はほとんどの火葬場が休業日だ。
24時間年中無休の葬儀屋も式が行えないため、今晩は通夜を控える必要が出てくる。
むろん我が錠野葬祭でも同じことであった。
この日ばかりは定時上がりに憂いがない。
宿直の先輩と後輩に後事を託し、束の間の自由に羽を伸ばす。
晴澄は明日の友引を2週間ぶりの休暇に当てていた。人間らしい営みを放棄していたせいで自室はそれなりに荒れていたが、負債の処理と向きあうのは今日でなくてもいい。
帰宅後早々に風呂を済ませ、晩酌のついでにいけ好かない同居人を抱くつもりで、タブレットをいじるその男の隣に腰を下ろした。
蝋の肌から花の甘さが香る。
無言でぬくもりに寄りかかる。
燻る酔いを煽り、ひとつしかないベッドに縺れこむ。
「──生憎だがな、ハル」
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