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冷たいシーツの上で目を覚ました。 昨夜、彼の夢を見た。優しい瞳をした彼だった。スマホの写真とメモを見て、彼が恋人だと知る。 〝一緒に海外に行って欲しい。明日返事が欲しい〟 私は彼に返事をしなくてはいけないみたいだ。隣のシーツを撫でながら、彼に電話を掛けた。 「もしもし、おはよう。花」 「おはよう。あの、光くん?」 「うん、光だよ」 「返事、なんだけど……」 「うん……」 「まだ全部思い出したわけじゃないの。でも昨日の夜、あなたが居なくて寂しかった。朝起きた時もなぜか寂しかった……たぶん、あなたに会いたかったんだと思う」 「花、それって……」 「私も一緒に行きたい」 「ありがとう!すぐ迎えに行く」 彼は息を切らしながら、キラキラした笑顔で抱きしめて頭を撫でてくれた。 「嬉しいよ、一緒に海外へ行こう」そう言うと空港まで連れて行ってくれた。 「何回乗っても慣れないな」 彼は機体が飛び上がるまで私の手を握り、ギュッと目を瞑っていた。その姿が可愛いなと思う。 機体は空へと浮かび、どこまでも高く、高く、上がっていく。 不思議な感覚だった。私の記憶も気持ちもふわふわしている。まさにこの飛行機の様だ。 でも、隣にいる彼と一緒に居たいという思いだけはしっかりと心にあった。   「こっち、こっちだよ!花!」 「うわぁ!きれい!!」 目の前は黄色一色。 まるで絵画の様な向日葵畑。 その花は行儀良く太陽の光を一直線に見ている。 花が光を見ている。 あれっ?これって…… 目を瞑る。 パズルのピースがはまっていく様に、記憶が戻っていく感覚がする。 そのピースが全てはまると、開け放たれた扉から風が吹き抜けて黄色い花びらが私を包み込んだ気がした。 花の中に居る彼に向けて声を掛ける。   「光!」 「花?」 「ごめん、ごめんね、光……」 私は彼に向かって走り出し、思いっきり抱き締めた。 「もしかして……僕の事、思い出したの?」 「うん」 「ここに連れて来て本当に良かった……」 彼は涙を流しながら微笑んだ。 「あの約束を思い出したんだ。光と海外の雑誌を見ている時に見つけた向日葵畑。向日葵は太陽の光を一途に見てるから私と似てるね、って話してたよね。じゃあ太陽の光も向日葵の花をずっと見てるから一緒だって、光がそう言ってくれた」 「うん」 「〝素敵な場所だね、いつか行きたい〟私はそう言った。光は〝絶対一緒に行こう〟って約束してくれたんだ」 「その約束が私を救い出してくれたんだよ。ありがとね。連れて来てくれて……そして、約束を果たしてくれてありがとう!」 たくさんの涙で濡れている頬を、彼の指が拭った。 「花、ありがとう、来てくれて。光はずっと花を見てるよ、この先もずっと……だから」 ポケットからネイビーの小さな箱を出す。それをパカっと開けた。 「花、結婚して下さい」 太陽の暖かな光が向日葵を照らし、眩しいぐらいに煌めく。彼の手の中の指輪はそれに負けないぐらいに輝いている。 私はゆっくりと頷いた。 「はい。花もずっと光を見続けるよ。ありがとう、嬉しい」  「良かった〜!」 彼の腕が背中へ回り、暖かいぬくもりに包み込まれると、段々と脈拍が上がっていくのを感じる。 彼を愛してる。 「本当はあの日、海外から帰った日に言うつもだったんだ。ようやく言えたよ」 「ごめんね、遅くなったけどおかえり」 「ただいま。花こそおかえり」 「うん……ただいま」 シルバーのリングが薬指を通り抜ける。 黄色い絨毯の中、私たちはおでこを合わせて笑い合う。   どれだけ遠く、深い、暗闇にいても光は差す。 閉ざされた扉をあきらめずに何度も叩いてくれてありがとう。 最後の鍵はやっぱりあなただった。 私たちは遠回りしたけれど、やっと幸せを手に入れた。 「記憶を失くした分の埋め合わせをしよう」 重なり合った背中には明るい日差しが降り注ぐ。 end
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