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こちらがふざけたのだから相手にもふざけて返してほしいのに、亜門さんは何も言わない。
「あの、亜門さん?」
せっかくのハレの日の時間をそんな沈黙に使いたくないので、わたしは促すように名前を呼んだ。
すると亜門さんは、驚いたように瞬きを繰り返して、それから我に帰ったように言葉を溢した。
「ごめん、百音がほんとうに綺麗で、夢なのかなって考えてた」
そういうあなたのほうが、綺麗だ。
美貌は月日を超えても衰えないし、以前ここにきたときよりも、表情の芯が柔らかくなってきたような気がしている。
わたしのおかげだったら、いいのにな。
「亜門さん、しあわせ?」
「うん、すごく」
「それって、わたしのおかげ?」
自惚れのわたしが返事を待っていると、彼は期待を超える答えをくれた。
「オマエがいなかったら、たぶん、しあわせの意味も知らなかった」
「じゃあ、わたしが亜門さんに教えてあげたんだね」
「悔しいけど、そういうこと」
好きの2文字は、最短で愛を伝える方法なのかもしれない。
だっていま、その2文字がなくたって。
わたしは亜門さんからの愛が届いているし、たぶんわたしからのそれも伝わっている。
わたしたちふたりの時間がある限り、それをじょうずに伝えられる方法をたくさん探して、見つけて、使っていきたい。
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