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十九、轟京
「桃」
「京様、おはようございます」
「ああ、おはよう」
愛しい存在と朝を迎えるだけで、一日が素晴らしいものになる。抱き上げて腕の中に閉じ込めると、桃は恥ずかしそうに身をよじった。
相良の言う通り、俺は桃に甘やかされている。
「桃」
「はい、こちらに」
名前を呼べば俺の望み通りの物を持ってくるし。
「桃」
「会議の出席者への手土産でしたら手配済です。明和治堂の和菓子をご用意致しましたが宜しいでしょうか。漆塗りの器も手配しています」
名前を呼べば俺の意思を全て汲み取り。
「桃」
「はい」
名前を呼べば何を差し置いても俺の下に飛んでくる。
桃の世界の中心は俺だ。裏切る事は絶対にないし、俺のためなら何でもする。それは轟家の全財産を預けても変わらなかった。
「桃、土産だ」
「京様、これは……?」
「似合うと思ったんだ」
桃が箱を開けると、ダイヤモンドのネックレスが現れる。使った石は全てSクラスで十カラット以上。桃のために作らせた一級品だ。それを認識した瞬間、桃は勢い良く首を横に振った。
「いただけません! こんなっ」
「何故だ」
「こんな高価な物、私には……」
「俺は桃に似合うと思ったんだ」
「……ありがとうございます」
桃は物に頓着しない。高価な物ならば自分には勿体ないと首を振り、俺が選んだと言えば頬を染めて受け取る。
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