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貴方と一緒に
「ニナー!手紙がきてるよー!」
「あら、持ってきてくれたの、ありがとう。」
「へへへ、うれしい?」
「うん、とっても。けど、早く戻らないとお菓子無くなっちゃうよ。今日はアップルパイだからね。」
「あ!そうだった!!」
アップルパイ、たぶん私の分は残ってないよね。この調子だと。
最近、木陰で手紙を読むのがお気に入り。
ボナースの皆からと、マールくんから。届くといえば、この2通しかないんだけどね。
「マール君、少し声がでたんだ!」
マール君の声は出るかもしれないと、東の国から来たお医者様が言ってたのが1年くらい前。順調にすすんでるみたいでよかった。
ボナースの皆も相変わらず元気そうだわ。
似顔絵を描いてくれてるけど…、どれも不細工だわ。私ってこんな風に見えてるのかしら。
「ニーナ」
何かしら、この人の声、エドワードの声に似てる気がするわ。そんなわけないけど。
私は今『ニナ』で暮らしている。名前を知ってるって事は、どこかのパーティーで私を見た事がある人かも。面倒だし、あまり顔も見せたくない。ここはニナに徹するわ。
「私はニナです。」
「そう、ではニナ。少し道を訪ねてもいいかな?」
エドワードの声にしか聞こえない
「…わかる所であれば。」
「ロバート教会は何処かな?」
そこは私が働いてる教会…。
「…ご免なさい。わからないわ。」
この人、しつこい。
「ニーナ、こっちを向いて。」
「私はニナよ。」
「そう言って、また俺から逃げる?」
「……っ」
声が似てる…って本人じゃないの!!
結婚報告にでも来たの?子供が出来た…とか?
そんなの聞きたくないわ…。
それが望みだったはずなのに、変よね。ここに帰ってきてから、私のいないところで
エドワードがどうしているのか知りたくない。そう思う事があるのよ。
「…人違いじゃないかしら。」
「俺が道を間違えたら殴りに来るって行ってたのに?」
「…ええ、けれど間違えていたらの話よ。」
横を向けば、エドワードの顔がある。2年くらいしかたってないけれど、顔つきが変わった気がする。色んな事があって乗り越えてるんだもの、そうなるよね。
「何かございましたか?エドワード陛下。」
「君には、エドワードって呼んで貰いたいな。」
「そんな事は出来ません。貴方はアルデーテの国王なのですから。」
「君はその婚約者だ。」
「2年ほど前はそうでしたが、今は教会で働く女です。」
「今もそうだよ。」
「っ私をからかいに来たのであれば…」
「からかう為に此処まで来ると思う?国をあけてまで。」
「……」
「俺は君と結婚したくてここに来た。」
「貴方はもう結婚しているでしょう。私が国に帰ったのは婚約者じゃなくなったからです。」
「していない、全て断った。ニーナと以外はする気はないって。」
そんな事、出来るわけがないわ。あの状況で、誰とも結婚せずにいられるとは思わないもの。
「…からかわないで帰って。」
「からかってない。俺と結婚して、ずっと
一緒にいてほしい。」
「…何度も言ってるでしょう。私は自由に暮らしたいの。結婚しても別居してくれるなら考えるわ。」
「…それは難しい。」
「だったら無理よ。私は楽しく暮らしたいの。出来る事を見つけて、やってみて、皆から必要とされたいの。貴族や王族になってしまったら、決まった事しか出来ないわ。
パーティーで気を使ったり、綺麗に着飾って歩いたり。そんな事に興味は無いの。言ったでしょう、貴方から逃げ切って一人暮らしする計画。」
…アルデーテに必要な人は私ではないの。
わかってるはずよ…。あの時別れたのに、何故こんな事をするのよ…。
「…結婚すれば君のやりたい事を全てやらせてはあげられないし、好き勝手には出来なくなる。けど、俺と結婚してもボナースへ行くのは止めないし、マール君と遊ぶのも止めないよ。仕事だって新しい事を見つけられる。今まで頼りにしてばっかりだった、『クール様』を負かすくらいになれるかもしれない。」
「何が言いたいの?」
「俺と一緒に暮らしてもやりたい事を見つける事は出来るし、君が1番悩んでる事は少し解決に近づくよ。『理不尽に苦しめられてる国民を助けられる存在』になる。1人だけを助けられる存在じゃなくて『王妃のニーナ』として平等になるように。」
「……」
私が皆を…
「『ニーナ』である時は、俺の相手をしてよ。俺もそうするから。」
「いつも護衛がついてくるような生活は嫌なの…」
「たまには2人だけで脱走して、街を歩けばいい。クリフには見つからないように。」
「…ねぇ、何故結婚するという話になってるの?私が貴方を好きだという事になってるの?」
「俺に『好きな人と一緒にいろ』って言ってたから、そうしようと思って。」
「私以外とも言ったわ。」
「残念な事に、俺は君じゃない誰かはいらない。」
「……」
「結婚して俺と同居しても、やれる事は沢山あると思う。国や民を一緒に守っていくのも楽しいと思わないか。」
「……」
エドワードと一緒に、皆を守れる…
「俺はニーナがいいよ。ニーナは…どうだか解らないけど。」
「…私は貴方は嫌よ。」
「……顔赤いけど、恥ずかしいの?」
「たった今、エドワードと結婚しないと決めたわ。」
私にだけ出来る事、私にしか出来ない事、誰かに必要としてもらえる事。
好き勝手な事は出来なくなるけれど、
エドワードと一緒にいるからこそ出来る事も
沢山あるんだわ。それをするのはきっと大変だろうけど、やりがいもあるし楽しいはずよね。
「俺と結婚して、楽しく暮らさないか?」
「……楽しくなかったら別居をする条件ならいいわ。」
「『別居したくない』って言うくらい、君を幸せにする。」
「出来るかしら?」
「はは、自信はあるよ。ニーナを笑顔にする。」
私だけに見せてくれた笑顔。
「ふふ、難しいわよ。」
その目にうつる私は笑顔だった。
別居…
そうね、いつかエドワードと一緒にいられなくなった時でもいいかもしれない。
貴方と一緒に皆を守る。
きっとこれ以上に楽しい事はないから。
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