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全力の干渉
大人たちに散々弄り倒されながらも、俺と真人さんの幼い(だろう)始まったばかりの恋人関係は、どうやら温かく見守ってもらえるようだ。
普通であれば全力で止められるんだろうけど、・・・まぁ、きっとこの大人たちは異質なんだろうな。
こうやって口には出さなくても、祝うような席を設けてくれたことに感謝しなきゃな。
・・・例え、
「何だお前、大好きな相手の誕生日も知らねぇのかよ」、とか。
「真人くんがハタチになっても、耀が成人するわけじゃないから、家にいる間は全力で干渉する」とか。
「こっそり会うのに、うちのホテルは使うなよ」とか。
「デートするならうちのお店に来ればいいよ。サービスするから」とか。
馬鹿にされたりからかわれているだけだとしても、きっとこの人たちに隠し事なんてできないと諦めるしかないんだろうな。
束の間の・・・嵐みたいな逢瀬の後、俺は父さんたちに引き摺られるように自宅へと連れ帰られた。
真人さんは、「1月の連休明けには戻るから」と、そのまま地元に残った。
父さんたちが乗ってきたレンタカーで空港に向かい、搭乗手続きをして飛行機でひとっ飛び。
一旦羽田まで行きそこから父さんの車で地元に戻ったら、行きの半分の時間しかかからなかった。
・・・こういう交通手段もあったんだ。
と、その時初めて知った事は、ふたりには言わなかった。―――――絶対バカにされるから。
帰路の最中、父さんと怜兄ちゃんにくどくどねちねち怒られ弄られ、帰宅してからは婆ちゃんに泣きながら説教を喰らった。
爺ちゃんは苦笑いでそれを見ていたけど、最後に一言。
「罰として明日から半年、ゴミ捨て係だ」―――――って・・・それ、爺ちゃんの仕事じゃんっ!!
年が明け、真人さんが帰って来る日になり、俺は朝からソワソワしながら迎えに行く準備をしていた。
家族たちはそんな俺を温い目で呆れた様に見ていたけど、そんなの気にしちゃいない。
新しい携帯も買った。
渡そうと思っていたプレゼントも持った。
服装も、持っている服の中で一番まともそうなのを選んだ。
毎日、夜寝る前に電話で話して、おやすみを言ってから眠る。
そんな風に過ごして、今日のこの日を指折り数えて待っていた。
足取りもふわふわと駅に向かい、彼の乗った電車が入ってくるホームに立った。
昨夜の電話で、待ち合わせ場所はホームじゃなく改札の前って事にしてたけど、俺は1分でも1秒でも早く真人さんに会いたかったから、ホームのベンチに座って待ってた。
んで。
それをとんでもなく今、後悔している。
約束通り、改札前で待っていればよかった、と。
だって、2両先のドアから降りた真人さんの横に、ごく当たり前のように並んでいたのは・・・かなえさんだったから。
俺は思わず立ち上がる。
別れたはずの二人が、一緒に帰って来るなんて誰が想像できるだろう。
上着のポケットに突っこんでいた手に無意識の力が籠り、渡そうと思ってたプレゼントの外装が情けない音を立て、潰れた。
なんでふたりはそんなに自然に笑っているの?
なんで何もなかったみたいに話しているの?
―――――ほんとにふたりは終わっているの?
女々しいかもしれないけど、ふたりの姿を見た俺は、その場で喚き散らしたいくらいの衝撃を受けた。
昨夜だって電話で話したのに、ちゃんと”好きだよ”って言ってくれたのに、どうしてかなえさんのことは教えてくれなかったんだろう。
もし、先に教えてくれてたら、もっと心の準備ができてたのに。もっと気持ちに余裕があったのに。
「―――――これは酷いよ。真人さん・・・」
俺の呟きは、発車のベルに飲み込まれ、消えた。
何か、俺ひとりで盛り上がってただけなのかな・・・って、彼らに背を向け歩き出そうとしたその時、ブーツのヒールがカツカツと音を立て背後に迫って、何事かと振り向いたら目の前に立っていたのはかなえさんだった。
「・・・あ、」
何の言葉も出ない俺を見上げたまま、彼女は怖いくらいにっこりと微笑み、俺はそれにつられた様に曖昧な笑みを浮かべた。―――――ら。
パンッ―――――。
電車の去った静かなホームに、肌を打つ乾いた音が響いた。
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