【目を開けるとそこには】

7/53
471人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
体を起こし水を飲もうと蓋に手をかけたが、震えて開けることができなかった。男に何度も拳を当て、押しのけようと力を入れ続けたからだろう。 男が持ってきていた別のもう一本を笑顔で差し出す、既に開いたものだ。 「──あなたの飲みかけなんかいらない」 散々キスもしたが、それでも抵抗する。 「なんだよ、本当に機嫌悪いな」 男は笑顔で言って、紗栄子が持つペットボトルの蓋を開けてやった。紗栄子はありがたく受け取り半分ほどを一気飲みする。泣きながらずっと声を張り上げていた、喉はカラカラだった。 「今日は、って。そんな仲がいい振りしたって無理だから。まあいいわ、もう満足でしょ。私、帰る」 とにかくここを出よう、このまま警察に行くのだと心に決めた。 「帰るって、どこへ?」 「自分の家に決まってるでしょ」 ここが何処なのか、何故こんなところにいるのかも判らないが、とにかく家に帰りたかった。 「空羅(そら)」 「さっきからそうやって呼ぶけどさ」 紗栄子は上目遣いに睨みつけて言う、情事の最中も何度も言っていた、それが名前なのだと判るまで少し時間がかかった。 「そうやって私を他の誰かに仕立てて罪を逃れようったって、そうはいかないんだからね」
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!