仁の心

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 銀行頭取の一人娘、新藤玲子令嬢は銀行取引先企業の原田社長に晩餐会へ主賓として招待され、会場があるホテルに着くと、出迎えた原田社長に、「お会いできるのを楽しみにしておりました。実際にお会いできて恐悦至極と申しましょか、とても嬉しく存じます」と言った。が、内心、写真で見た通りのデブだわ、顔も脂ぎっていてうんざりと思っていた。  晩餐会待合室に飾られた、見るからに清い白百合の花を見て玲子は原田社長に、「わたくし、お花が何よりも大好きですの」と言った。が、内心、花より団子よ、早く馳走に与りてえと思っていた。  晩餐会待合室で主催の原田社長夫婦と来賓客を待っている間、玲子はローブデコルテに身を包んだ自分の美しさを来賓客が訪れる度に来賓客と共に褒め称える原田社長に麗しい笑顔で答えていた。が、内心、このスケベ親父と思っていた。  正餐中、玲子は原田社長に、「お年頃ですからパートナーをお探しでしょう。どんな人が良いですか?」と訊かれ、「何より誠実でお優しい方が宜しいですわ」と答えた。が、内心、当然、金満家よと思っていた。  晩餐会が終わった後、玲子は原田社長に、「今日は原田社長とお目に掛かり、お付き合いまでさせてもらいまして光栄至極に存じ、とても楽しかったですわ」と言った。が、内心、嗚呼、本当にうんざりした、嗚呼、もうげんなりと思っていた。   
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