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「……つ!」 金髪の男はベッドにうつ伏せで手足を拘束され、中年の男にケツを犯されていた。 両腕に掛けられている手錠はベッドボードに繋がれ、両脚は革製の拘束具でベッド端に縛り付けられている。 身体の自由を完全に奪い犯す中年の男は、贅沢な暮らしで弛みきった腹を打ち付けながら腰を使う。 密封された部屋に響く皮膚の乾いた音。そして罵声。 「たりねぇな」男は荒い息もそのままに吐き捨て、金髪の男の尻を平手で叩く。 激しく尻を叩かれる度、背中を反らせる金髪の男の青白い肌には無数の切創痕。 男は舌打ちして、「慣れやがったか」と挿入したまま吐き捨てる。 すぐに棘付きの先端が複数に分かれた黒革製の鞭を握り、金髪の男の背中を強い力で打つ。 「いっ!」 仰け反れば、後頭部の髪を鷲掴みされ、強い力で引っ張られる。罵声と同時に背中を打たれる。 滲んだ涙とともに出た声は痛み。 髪を皮膚ごと引き千切るかのような強い力で引っ張られる痛み。 背中を鞭で殴打される痛み。 切り替わらない感情…―――。 感情の配線が『気持ちいい』に繋がらない。もっと母さんのように罵ってよ。 金髪の男は父親の顔を知らない。否、記憶がないのかもしれない。物心がついた頃には、すでに複数の男が家に出入りしていた。若く派手な容姿の母親は幼い子供だった彼から見ても綺麗な女だった。しかし、母性の欠片も持ち合わせていない感情の起伏が激しい女で、日常的に罵声を浴びせられ、暴力を振るわれていた。 『ママなんて呼ばないでちょうだい!』 『お前なんて生まなければ良かった』 『ねぇ、外に行って車とぶつかって死んでくれない?』 母親は日が暮れると仕事だといって肌の露出度が多い服装で出掛けていき、朝方になると人相の悪い男と一緒に帰ってくる。その男達と決まって裸で抱き合い、母親は聞いたこともない声を上げていた。隠れる場所がない部屋でどちらかの視界に入れば、激しく罵倒され、手加減なしに殴られる。 『このガキがぁ 萎えンだろうがぁ!!』 『男かよ。女なら可愛がってやれんのによ』 『おう、ボウズ。交ざりてぇのか?』 未就学児の彼は大人たちのサンドバックになるか、暴力の代わりに小さな身体に別の意味での暴力を受けることがほとんどだった。それは彼が十七のとき、母親が連れ込んだ男と一緒に覚醒剤のオーバードーズで死ぬまで続く。 長期間に渡り暴力を受け続けていた彼は、その頃には完全に壊れていた。感情の配線は歪み、捩れ、他人から強烈な痛みを受けることで生きていることを実感するようになり、その喜びは性的興奮に繋がるようになった。そして母親が心にも無く生涯でたった一度だけ言った台詞に過剰に反応するようになっていた。それを他人から言われると、身体を傷つけるようになっていた。それは彼にとって自傷行為ではなく、忘れないためのしるし。 感情の配線が『気持ちいい』に繋がる。さあ、言ってよ、あの言葉を。 「あぁっ」 ベッドにうつ伏せの状態で両手足を拘束されていた金髪の男は拘束を解かれ、棘付きの鞭で打たれて血に濡れた背中を中年の男に向ける格好で太腿に腰掛け、自身の濡れそぼった竿を扱いている。 一回目の射精後に拘束を解いた中年の男は金髪の男のために。否、自身の性癖を満たすために特注で作った前歯を全て覆う金属製の牙を、金髪の男の肩口に立てる。 薄い皮膚を破り、彼の肌に血を滲ませながら食い込んでく。 「んぁあ…つ」 牙が深く差し込まれた瞬間、金髪の男の白が弾け飛んだ。 ヒャッハ、と金髪の男が独特な笑い声を上げて、濡れた手を舐めようとしたのも一瞬、中年の男は彼の肩口に金属製の牙を刺したまま、強い力で首を掴み、そのまま金髪の男をベッドに捻じ伏せた。挿入したままの男は彼の背中を叩きながら、激しく腰を律動される。肌を叩く音、弛んだ腹が尻を打つ音、結合部から滴り落ちる体液と混ざり合った濁った赤。猟奇的なセックスののちに中年の男も爆ぜる。 金髪の男は体内から中年の男が出て行くと、余韻に浸ることも無く笑いながらベッドに両手を付いて起き上がった。そのまま中年の男の方へと身体の向きを変え、脚を大きく広げ両足の裏を合わせ座り、笑いながら言う。 「ヒャハハハ。おっさんも変態だな」 「       」 肩口に突き刺さったままの金属製の牙を抜くと同時、中年の男は母親と同じ台詞を言った。 金髪の男の顔、身体、性器に至るまで開いているピアスホール。同じ台詞を言われる度に開けてきたそれ。これまで相手から告げられたそれはすべて虚偽。しかし、彼は真実だと受け止めている。否、気付いていても気付いていないフリをしているかもしれない。 ―――またピアスが増えた。 FIN スピンオフ/金髪の男(14話登場)
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