すれ違いでもただでは帰しません!

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同居まで考えていたくらいだから、離れているのは予想以上に寂しかった。電話は時間が合えばいつもしているし、僕が夜勤のときもメッセージのやりとりは欠かさない。心は繋がっていると確信してるけど、やっぱり会って話したいし肌を重ねたい。  お互い仕事があるし、福岡と東京だとそう簡単に会いに行けない。短い夏休み以外、僕が福岡に行くのは難しい。病棟の担当だから年末年始も勤務がある。なのに、僕はお人好しでちょっとぼんやりしたところがあるから、夏休み期間のシフトも直樹さんのお盆休みに合わせるつもりが、人に頼まれて譲ってしまって後で後悔するのだ。  あとは、直樹さんが仕事で東京に戻ってくるときだが、急に決まる場合が多くて、僕の休みと合わないことがほとんどだ。ホテルじゃなくて僕の部屋に泊まってもらって、できる限り一緒にいる。  今回はなあ……3ヶ月振りに帰ってきた直樹さんは、5日間も東京に居たのに、ふたりとも忙しくてすれ違い生活だった。せめて今夜だけでも……と思ったのに残業だ。  帰った瞬間は気分が高揚してたけど、明日になったら直樹さんが帰ってしまうかと思うとだんだんテンションが下がっていく。  僕は味噌汁とご飯を盛り付け、冷蔵庫から酎ハイの缶を取り出して、ソファの前のテーブルへと運んだ。ラグの上に座って、食べ始める。昼ご飯を食べてから今まで水分補給だけだったのでお腹は空いているけど、なんだか味気ない。 「肉じゃが、味薄かった?」 「いや、美味かったよ」  直樹さんはそう言ってくれるけど、僕には美味しくないんだよなあ。味噌汁は作って貰ったからか、美味しいけど。僕は機械的に料理を詰め込んで、汚れた皿を流しに運んで洗ってしまった。  直樹さんは資格試験のテキストを読んでいる。福岡支社にいる間に免許を取りたいらしい。眼鏡をかけているせいか、こういうときはインテリ風で格好良い。邪魔するのは悪いと思っているんだけど……でもビール飲みながら読んでくらいだし……と思い切って隣に座ると、髪を撫でてくれた。僕は直樹さんの肩に寄りかかって、酎ハイをぐっと飲んだ。アルコール強めのやつだから、ちょっとくらっとする。 「元気ないな。忙しかったの?」 「うん……」 「疲れたのかい」  直樹さんは本をテーブルに置いて、僕の背中に手を回した。 「疲れたは疲れたんだけど……それより直樹さんとあまり一緒にいられなかったから……」 「もっと時間取れるはずだったんだけど、会社でトラブルがあってバタバタしてたからね」  僕だって仕事を優先させているんだから、直樹さんを責めるわけにはいかない。でも、運が悪いなあ。 「明日帰っちゃうの」 「そうだよ」 「寂しい……」  僕は急に悲しくなって──ようやく素直になれたのかもしれない──直樹さんに抱きついてしまった。
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