すれ違いでもただでは帰しません!

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 せっかく直樹さんが出張で東京に来てるというのにふたりのスケジュールが合わない。僕の方が夜勤だったり、夜勤明けは直樹さんが本社勤務で遅くなったり……明日の朝にはもう福岡に帰ってしまうというのに、入院する患者さんの受け入れでバタバタしてしまい、3時間も残業してしまった。  急な残業はいつものことだから、普段なら「よーし、今日はコンビニスイーツでも買おう!」と気持ちを切り替えるんだけど、今日ばかりはじりじりしてしまって、着替えを済ませると通りをダッシュした。  アパートについたときにはもう21時を回っていた。 「ごめんなさい!ご飯、食べてる?」  ドアを開けて奥に声をかけながら、手を洗ってリビングに駆け込むと、直樹さんはもう缶ビール片手にソファでくつろいでいる。 「もう食べちゃった」  テーブルには僕が朝作っておいた肉じゃがの鍋や、茶碗、作り置きのひじきの煮物の残りが並んでいる。僕に気を遣って待っていなかったのは上出来だけど、ずいぶん肉じゃが食べちゃってるなあ。太るぞ。  僕が鍋を見ているのに気がついたのか、直樹さんは申し訳なさそうに言った。 「味噌汁作ったから温め直して。俺のじゃ口に合わないかもしれないけど……」  直樹さんは料理しないタイプだったのだが、福岡に赴任してから残業がかなり減ったとかで、最近は自炊している。  僕はキッチンに立ってコンロに火をつけた。わかめと大根と豆腐の味噌汁。正統派だなあ。僕は何でもいいやとばかりに冷蔵庫の残り野菜を入れちゃうから、トマトやらキュウリやら納豆やら、闇鍋状態のを作ってる。  直樹さんは建設関係のサラリーマン、僕は看護師だ。直樹さんが仕事中に大怪我をして、僕の勤めている病院に入院した……なんてベタな出逢いだけど、意気投合したのが4年前。自分の性癖に薄々気づいていたものの、男性と付き合ったことのなかった僕に、直樹さんは優しく段階を踏んでくれて、1年半かけてようやく体まで結ばれた。その頃から一緒に住もうかと話し合っていたんだけど、直樹さんの福岡支社への異動が決まっていったん白紙になってしまった。  僕は勤めているの病院を辞めて、福岡で就職活動をしようかと考えたが、直樹さんに「俺は3年経てば東京に戻れるから。(あきら)くんは今の病院でキャリアを積んだ方がいい」と言われた。確かに他のスタッフとも上手くやれているし、直樹さんが異動するたびに就職活動をするのも大変だ。僕たちは遠距離恋愛を選んだ。
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