輪郭線の音色

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   島の港に立って緊張した。もっとトロピカルでパラダイスな感じの島なのかなって思っていたのに、岸辺からすぐ見えたのは壊れた漁師小屋や、伸びきった樹木に覆われた先にある全景が見えない神社だった建物や、割れた瓦や朽ちた戸板や、石釜や五右衛門風呂や敷石だけの廃屋や、錆びた電化製品などの生活の名残りだった。文明から忘れられた残骸には色が無かった。悲しい気持ちになった。私が物を捨てて旅に出たように、ここに住んでいた人たちも物を捨てて旅に出なければいけなかったことに。  必要じゃないから捨てた物と、必要でも次の場所に持っていくことが出来ずに置いていかなきゃいけなかった物。同じ捨てられた物。  活かされようが、遺棄されようが、忘れられても、忘れられずとも、物に罪は無いと思った。必要じゃ無い物を捨てることじゃなくって、最初から不必要な物を見極めなきゃいけなかったんだと思った。この島を去った人達の、必要な物を残して行かなければいけなかった断腸の思いを想像したら涙が出て来た。心の中で私が捨てた物にも謝った。彼氏に合わせた色の産物は無駄だったかもしれないけれど、色んな体験をさせてくれたことには感謝しなければいけないと。
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