もう離さない (友樹 side)

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「ありがとう」 素直に受け取り、嬉しそうに言う若菜。 《でも俺にとってもよかったよ。これからは俺も気兼ねなく相沢に南條のことを聞けるから》 「そう言えば、どうして成瀬くんは今まで一度もわたしに友樹の話をしなかったの?わたし達がずっと付き合ってると思ってたなら、世間話のついでに何か言ってもよさそうなのに……」 若菜の疑問も一理ある。 俺と若菜が再会する今日よりも前に、成瀬が若菜に俺のことを聞いていたとしたら、それこそ、世界は逆さまになっていたりしたのだろうか。 例えば、若菜が俺と別れていたと知った成瀬が、若菜に告白するとか…… ところが、不思議がっている若菜に届いた成瀬の回答は、至ってシンプルなものだった。 《それは、まあ、100%の確信はなかったし……。というより、もう用事は済んだんだから、俺はさっさと引き上げるよ。どうせお邪魔虫だろ?あとはお二人で仲良くどうぞ》 成瀬はそう言って有耶無耶に濁したかと思うと、今度は俺に向かって《南條、》と呼びかけてくる。 「なんだ?」 《いろいろ悪かったな。知らなかったとはいえ、きっと、南條を困らせてたよな》 なんのことを言ってるのかは、すぐに分かった。 だが若菜もいる手前、どう答えればいいのかは分からない。 口下手はまだまだ改善の余地があるのだと、もどかしくも実感した。 《あの頃言ってたことは、もう全部忘れてくれ》 「……分かった」 《相沢と仲良くな》 陰りのない言葉付きは、それが成瀬の本心だと教えてくれる。 だから俺も、嘘偽りのない想いを成瀬に伝えたいと思った。 「もちろん。もう離さない。もう一生、離すつもりはないから」
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