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雨と映画
映画館に入った時と、映画館から出てきた時。
その前後で世界が変わっている錯覚にとらわれることがある。
暇潰しの為に入った、別に観るつもりの無かった映画を観て劇場からホールに出たら、外はもう夕暮れで、雨が降っていた。
まるで僕が映画館に入る前に存在していた世界を洗い流して亡きものにしていたかのような土砂降り。
そんな中へ、パーカーのフードを被ったり、襟を立てて猫背になったりしながら駆け出して行く人達を見送りつつ、僕は映画館にありがちな高めの値段設定の自販機から、200円もするペットボトルのお茶を買い、ホールの隅に置かれた長椅子に座った。
暗闇の中で下らない映画を漫然と観ている間に、僕が知っていた使い古され、錆び付き、薄汚れた街は綺麗さっぱり洗い流され、清浄で美しい黄昏に染まる黄金都市へと変貌を遂げ、気が付けば僕が知るかつての街の片鱗は、この映画館の中だけになってしまっていた。
古い世界を捨て、新しくなった世界へと躊躇なく羽ばたいて行ける人達。
僕もそうなれるように、ぼったくりのお茶で雨上がりを待たなくてもいいように、次に映画館に来る時には、フードの付いたパーカーを着て来ようと思う。
次の上映時間が迫り、新世界からこの取り残された映画館のホールにやって来る人達を眺めながら、僕はそんな事を考えていた。
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