夢の続きを歩いていく

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 ミモザの母親の手料理は想像以上においしくて、どれを食べても感動が止まらなかった。 「うまっ、これもうまっ。いや、ミモザの弁当、いつも彩り豊かでうまそうだなって思ってたけど、お前のお母さんほんとすごいな。改めて今度お礼言いに行かせて」 「うん、いつでも来てよ。母さん、三輪が来るとよろこぶし」  ミモザは出汁のきいた厚焼き卵を食べながら頷いた。 「俺がさ、こんな感じで、あんまり食べられないから、せめておいしいものを食べさせたいって、料理教室通ったりして、いろいろ研究してたんだ」 「なるほどなー。うん、このかにクリームコロッケ、とろける。煮物も久しぶりに食べたけど、なんか沁みるわ」  しみじみ言う俺に、ミモザはほっとしたように笑った。  和やかに夕食は進み、重箱のほとんどを俺が平らげてしまった。 「三輪、ほんと食べる時はよく食べるよね。なのに太らないし。どこに栄養いってるんだろう」  満腹すぎてソファの上でだらけていると、隣に座ったミモザが言う。  重箱の残りをタッパーに詰めて、冷蔵庫にしまってくれて、空になった重箱や食器を洗うついでに食後のお茶まで淹れてくれた。 「ミモザって、いい奥さんになれそうだよな」 「は?」 「いや、意外とてきぱきしてるし」 「頭に栄養が回ってないことは確かだな」 「なんの話?」 「三輪のこと」 「失礼。いいじゃん、ミモザの奥さん姿絶対かわいいと思うよ。ふりふりのエプロンとかちょー似合いそう」 「奥さんって、俺、男だし。そもそも誰の奥さん設定なんだよ」 「え? 俺?」 「え?」  顔を見合わせると、途端にミモザの顔がかっと赤く染まった。 「な、なに言ってんの。お前の奥さんとか、そんなのありえないし。ふりふりのエプロンなんて絶対着ないから。お前、勉強のしすぎで頭おかしくなってんじゃないの、それか夏の暑さにやられて……」  顔を背けたミモザの小さな耳まで赤くなっていて、かわいいなと思った。  ミモザがああだこうだ言ってるのは無視して、俺は指先でミモザの耳にかかっていた黒髪を避けると、耳たぶに吸いついた。 「ひゃっ、なに? なに!?」  ミモザが驚いて逃げようとするので、腰を抱き寄せて柔らかく耳たぶを噛んだ。 「みっ、三輪? なに? やめて。くすぐったい」  そのままソファの上に仰向けに押し倒すと、ミモザはさらに頬を赤くしていた。  俺はミモザを見下ろして言う。 「いいじゃん、俺の奥さん。ずっと大事にするし。そういう未来、考えたりしない?」 「そん、なの……。そんな先の、未来とか、分からない。今はただ、大学に合格することを考えてるし。来年の春から、俺もお前も、大学生になれたらいいなって」 「なれるっしょ」  俺はそのままミモザの上に覆い被さって、ミモザの頬に頬を寄せた。 「ミモザ勉強できるし問題ないよ。俺も、これでもがんばってるし」 「あ、うん……」  ミモザは俺の背に手をやると撫でながら言った。 「三輪、がんばってるよね。福祉の道に進んで看護の資格取るって決めてから、ずっとがんばってる」 「さすがに今から医者は無理だしな。それでもミモザになんかあった時冷静でいたいし」 「俺の、ため?」 「うん」 「俺の、せい?」  ゆっくり顔をあげてミモザを見つめた。
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