君の背中

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君の背中

私は後悔している あのときのウソを後悔している 入学前に花が散り、綺麗な緑の葉が茂っている桜の木が教室の窓から見えていた。 高校1年生、同じクラスでとなりの席になった『高瀬』に私は恋をしていた。 高瀬は人懐っこくて、明るいやつだった。 となり同士の私たちは、どちらかともなく話始めて仲良くなっていった。 お互いが好意を抱いてるんじゃないかと感じるのに、そう時間はかからなかった。 ただはっきり確信は持てなかった私は、なかなか告白することができなかった。 高校2年生になり、また高瀬と同じクラスになれた。 「また同じクラスかよー」と迷惑そうに言いながらも、高瀬は嬉しそうに笑っていた。 ある日、高瀬が違うクラスの女子から告白されているところを私は見てしまった。 遠くからだったので、高瀬の答えがよく聞き取れなかった。 心がザワザワして、苦しくなった。 その日の放課後、クラスの男女何人かで私と高瀬の仲が良いので付き合ってるのかという話に、高瀬の居る前でなった。 「付き合ってないよ」と否定した。 願望はあるが、これは事実だ。 「じゃあ好きなの?」と聞かれた途端、頭が恥ずかしさやらなにやらでパニックになった。 「す、好きじゃないよ。1年のときも同じクラスだったし、仲良いだけの友達だよ」 私は咄嗟に気持ちとは違うことを口走っていた。 「…そーそー、同じクラスが長いから仲良いだけだよ」と、高瀬の声が聞こえる。 高瀬がどんな表情をしていたのか、私は怖くて見ることができなかった。 私は高瀬にウソをついてしまった。 後から否定すれば良かったのかな…。なんて思いながらも、なかなか勇気が出ないまま時間だけが過ぎていった。 それから高瀬は私とあまり話さなくなって、気づいたら挨拶も交わさないクラスメイトの1人になってしまった。 高校3年生になり、高瀬とは別のクラスになった。正直同じクラスでいるのは辛かったので、ホッとしていた。 程なくして、高瀬に彼女ができたと噂になっているのを聞いて胸が苦しくなったが、当然のことだから仕方ないと自分に言い聞かせた。 教室の窓から、高瀬と彼女が2人並んで歩いてる姿が見えた。小柄でかわいい女の子。 思えばウソをついたとき以来、私は高瀬の背中しか見ていない。いつも遠くから眺めることしかできなくて、高瀬がどんなことを考えてるかなんてまるでわからない。 ただただ、高瀬の背中を見つめることしかできない私は、一体何がしたいのかさえわからないままだ。 高瀬はあの彼女を抱きしめたりするんだろうか、キスしたりするんだろうか…。 想像するだけで、胸の奥が押し潰されそうだ。 私はあのときのウソを後悔している。 私と高瀬は付き合っていたわけでもないし、何があったわけでもない。 あのウソが私にとっては重大でも、高瀬にとっては何気ない会話に違いない。 だけど、もし高瀬ともう一度話すチャンスがあれば、あのときの自分の気持ちを素直に伝えてみたいと思うけれど…。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 僕は後悔している あのときのウソを後悔している 教室の窓から、花が散ったばかりの桜の木が日だまりの中で立っているのが見えていた。 高校1年生、同じクラスでとなりの席になった『早川』に僕は恋をしていた。 早川は長い黒髪が綺麗な、笑顔のかわいい女の子だった。 となり同士で色々話してるうちに仲良くなってきて、少なからず早川は僕に好意を持ってくれているのではないかと感じていた。 ただ確信できなかったので、告白して今の関係が壊れるかもしれないと思うと、気持ちを伝える勇気が出なかった。 高校2年生になり、また早川と同じクラスになった。 「また同じクラスかよー」と言いながらも、内心では嬉しい気持ちでいっぱいだった。 早川もなんとなく嬉しそうに見えた。 ある日、違うクラスの女子に呼び出されて告白された。あまり話した印象もなく、その女子のことをよく知らなかったが、僕のどこが良いのか好きだと言ってくれている。ありがたい話だ。 「気持ちは嬉しいけど、ごめん。僕、好きな人がいるから」そう自分で口に出して初めて、やっぱり僕は早川のことが好きなんだと改めて気づく。 その日の放課後、クラスの男女何人かで、僕と早川が仲良いから付き合ってるのかという話になった。 早川と僕ももちろん否定した。願望はあるが、事実だ。 じゃあ好きなのか?と聞かれた早川はそれも否定した。ただの仲良い友達だと。 「…そーそー、」と僕も答えたが、内心、頭が真っ白になっていた。 僕に好意を抱いてくれてるんじゃないかって思ってたのは、僕の勘違いだったのか…。 早川が同じ気持ちじゃないなら、僕の気持ちは迷惑になる。だから僕はウソをついた。 早川の表情が、うつむいていてよく見えない。 それからのことはあまりよく覚えていない。自然に早川を避けるようになり、あまり話さなくなってしまった。 今まで通り、普通に接していないとおかしいのに、僕にはそれができなかった。早川は変に思っているはずだ。ただの友達なんだから。 高校3年生になり、早川とは別のクラスになった。正直同じクラスでいるのは辛かったので、ホッとしていた。 程なくして、僕には彼女ができた。同じクラスの女子で、同じクラスになる前から好きだったと告白された。 断る理由がなかったし、話やすい子だなって思ってたし、率直に好意を伝えてくれたことが嬉しかった。 彼女と2人で歩きながら、ふと振り向くと遠くに早川の姿が見えた。早川は廊下を真っ直ぐに背を向けて歩いている。高校2年生のあのとき以来、僕は早川の背中しか見ていない。 どんな表情でいるのかも、僕にはもうわからない。早川は好きなやつとかいるのかな…。彼氏がいるって話は聞かないけど。 「ねぇ、どうしたの?」上の空だった僕を見て彼女が言う。 「いや、なんでもない」そう言いながら、僕は自分の気持ちの違和感に気づく。 僕はウソをついている。 僕はまだ早川が好きなんだ。 「ごめん…。本当にごめんっ」そう彼女に告げると、早川の方へ走り出してる自分がいた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「早川ーっ!」 背後から高瀬の声がする。 高瀬が私の名前を呼んでいる? まさかね。空耳でしょ。 「早川っ、話があるんだ!」 すぐ後ろで声がして、振り向くと高瀬が立っている。 汗だくで、なんだか必死な表情。 嗚呼、久しぶりに高瀬の顔をちゃんと見た。 なんの話だろう? もしかして、今があのときのウソを正直に話すチャンスなのかな。 今度は誤魔化さず、ちゃんと自分の気持ちを伝えてみよう。 ≪おわり≫
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