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「あ……」
店内で迷子になるほど広いというわけではないし、男性は数人しかいない。
詩陽にとっての危険はないのだから、心細く思う必要などないのに、詩陽は思わず手を伸ばしていた。
その手をすぐに掴まれ、クイッと引っ張られる。
そのまま気付くと、体を何かに覆われていた。
「詩陽は昔から、すぐに迷子になるのよね。危なかったわ」
体に直接響いた低い声に、詩陽の中で勝手に心臓がとくんと返事をした。
伶弥の声は男性でも低い方であることは知っていたはずなのに、どうしてだか、今は知らない声のように感じた。
怖くはないが、落ち着かない。
伶弥の胸はこんなにも硬かっただろうか。
背は高いが、運動はしてこなかったはずだから、筋肉質というわけではない。
それどころか、どちらかというと細身だ。
長い腕は詩陽の体にしっかりと巻き付いている。
腰に回された手が熱い気がする。
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