Prologue -S-

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うつ伏せになったまま荒い息を整えていると、ふと視界の隅に何かを見つける。 「……何? これ」 ベッドの隙間に落ちていた、一粒の赤いピアス。 ハートの形だから、どう見ても女物。 私はそれをつまみ、彼に向けた。 「前の彼女のか――それかこの前、何人かで集まったときに、誰かが忘れていったんじゃないか?」 ちらりとそれを見た彼は、背中を向けたまま、だるそうに答えた。 幸せだった気分が、一気に冷める。 彼を信じた私が馬鹿だった。 絶対に女の存在を認めないから。 次こそは、痕跡を残さない――浮気をしないって信じてたのに。 ほとんど叩きつける勢いで、サイドテーブルにピアスを置き、すばやく服を身につける。 「……もう、いい。帰るね」 「おい、紗矢花?」 背後から焦った声が聞こえたが、視線さえも与えずにドアを閉めた。 一度、自分のアパートに戻りシャワーを浴びたあと。 私は再び出かける準備をした。 行き先は、いつもと同じ。 兄の友人の家。 優しい彼に会えば、きっと傷口は癒えるから。 私は今日も彼を頼ってしまう。 さっきまでとは違う、露出の少ない服に着替え、私は車を走らせた。
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