第一章

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   一目惚れだった。  忘れもしない、小学五年の夏。  花火大会の夜。  その子は水色の浴衣を着て、ベビーカステラの屋台の列に並んでいた。  ちょうど彼女の後ろに並んでいた狭野(さの)笙悟(しょうご)は、最初は気にも留めていなかった。  目の前に中学生くらいのお姉さんがいる、とだけ認識していたが、背中側しか見えなかったため、目を合わせることもなければ言葉を交わすこともなかった。  けれど、やがて列が進んで彼女が先頭に立ったとき、初めて違和感を覚えた。  せっかく順番が回ってきたというのに、彼女はいつまで経ってもカステラを買おうとしないのだ。 (? どうしたんだろう)  無言で突っ立ったままの様子を不審に思ったのか、カステラを焼いていた屋台の男性も、訝しげにこちらを見る。  そして、 「どうした、坊主。買わないのか?」 「……えっ?」  あろうことか、男性は目の前の客には見向きもせず、そのすぐ後ろにいた狭野に声を掛けてきたのだ。 「え、あの。だって、こっちのお姉さんの方が先に……」  戸惑いながらも、目配せするように目の前の背中を見上げると、彼女もまたゆっくりとこちらを振り返る。  
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