天才のままならない人生 〜異能力 ten minutesの悲劇〜

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僕は高村(たかむら)。某T大で情報システムを勉強している学生だ。 そして同じ学部に、速水(はやみ)という男がいる。僕は一浪しているから、歳は僕よりひとつ下だ。 今回はこの速水という男の話をする。 速水はとにかく、ひとところにじっとしていないやつで、常にあっちに行ったりこっちに行ったり、落ち着きがない。 例えば、講義を受けている最中でも、座席をすぐに移動する。 「黒板がよく見えねえんだ」 「速水。そうは言ってもちょっとかわりすぎだろ。昨日だっておまえ……」 僕がそう言いかけると、あああああれはトイレトイレなどと言う。けれど、そのトイレってのが、すでに怪しいのだ。 講義室を出て廊下の遥か先にあるトイレに行ったとしてだな。帰ってきたら普通、出入り口付近の席に座るはずだろ? それがこいつは、いつのまにか堂々と講義室のど真ん中に座ってやがるんだ。いつのまにかな。それで、気がつくと。今度は窓際に座っていたりする。で、次に気がつくと、入り口付近に戻ってたりする。 外部の聴講生のために講義室のドアはフルオープンだから、講義を聴きながら出入りをチェックするのは難しい。 「え、それがなにか?」 すっとぼける速水に僕が面と向かって、お前の行動は非常に怪しい‼︎ と突っ込んでも、まるで意に介さない。 それにだな。同じ学部の女子なんかは、「速水くんって飄々としててカッコイイ」とかなんとか言っちゃってだな、イケメンには甘いときてる。 僕はいつか絶対にコイツの化けの皮を剥いでやろうと、その隙を狙ってつけ回していたわけだが、ある日。 速水の方が突然、両手を上げて降参だ、と言い出した。 「真実を話す。だから悪いがお前の車を貸してくれないか?」
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