32.目覚めのキス(啓五視点)

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 想いを伝え合って、気持ちを確認し合っても、その重さは全く異なるように思う。啓五ばかりが陽芽子のことを必死になって追いかけているという大前提は、きっと最初から何も変わっていない。 「ふふっ」  勝手に悔しい気分を味わっていると、腕の中で陽芽子が小さな笑い声を零した。啓五の好きな癒しの声は、今日も鈴が転がるような音色だ。  朝からご機嫌な陽芽子の心を知りたくて顔を覗き込むと、すぐにしあわせいっぱいの笑顔を見せてくれる。 「ううん。目が覚めて最初に会うのが好きな人、ってすごく贅沢だなぁって思ったの」  そして添えられた言葉に、思わず言葉を失ってしまう。  陽芽子の声と表情は本当に嬉しそうで、喜びに満ちていて、しあわせそのもので。  自分が傍にいるだけでこんな風に笑ってくれると気付き、静かに衝撃を受ける。それと同時に、自分のささやかな感情がとてもちっぽけに思える。笑顔ひとつで啓五を幸せな気分にしてくれる陽芽子に、自分は絶対に勝てないと思ってしまう。 「あ、もう起きないと」  そう言って起き上がろうとした陽芽子の身体を、ベッドの中に引きずり戻してそのまま強く抱きしめる。 「ひめこぉ」 「え、えっ……なに!?」  結局、いつもこうなのだ。  惹かれるのも、恋をするのも、想いを伝えるのも、いつも啓五が先。こんなに深く惚れてしまうのも自分ばかり。陽芽子の気持ちがこちらに向くように一生懸命に誘導して、アプローチして、ようやく少し近付くのに。  その矢先にまた好きになっている。  いつまでも、自分だけが恋に落ちている。  だから王子様(啓五)お姫様(陽芽子)にかしずくのは、仕方がないことなのだ。 「んう……? どうしたの……?」 「ま、それでもいいか」  それでも構わない。陽芽子が他の誰かではなく、啓五を選んでくれるなら。たくさん口付けて、いっぱい撫でて、愛の言葉を囁いたぶん、傍にいてくれるなら。  スノーホワイト( 陽芽子 )が笑いかけてくれるなら、啓五は今日もしあわせでいられるのだから。  ―――Fin*
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