Chapter3−3 三人目の祝辞

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「え、じゃあ、あなたがマキさんを好きな理由は……」 「彼女は僕の上っ面な言葉を唯一、〝本心〟に変えてくれる人ですから。彼女が幸せになればなるほど、僕が幸せになってウィンウィンという寸法です。牧ちゃんにとっては、僕が彼女をケアすることがストレスじゃない点が非常に安心できるとのことです。  僕もこの歳になってしまいましたが、彼女となら一緒に老後を過ごして、死んでもいいと思いました。同居したての頃は、オーガスタス・カリヴァンという男と国際結婚していたことも、あなたという息子がいることも知りませんでしたし」  いつの間にかタカシは、三杯目のワインを注いでいた。ユージはすっかり、前菜の野菜をつつくことすら忘れていた。 「親父が死んで、俺がいるって知った時に、別れようとは思わなかったんですか」 「事情が事情ですから、隠していることは当然でしょうし、夫から逃げていたということにも頷けますから不倫とも思いませんでしたし、父親が死亡したなら法的に夫婦の問題は消滅したわけです。  失礼、今の言葉は不謹慎だったとさすがに僕でもわかります。しかし、申し訳ないですがこれが僕の本心です。  僕が牧ちゃんへ言ったのは一つだけ。息子を置いてきたことに対して『よくない』と言ったのみです。これも、僕の本心ではなく統計上多くの人間がそう言うであろうと思ったので説教くさくなったにすぎません。  ああ、やっぱり牧ちゃんがいなくてよかった。本人には聞かせられませんね。
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