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壱
「い"っっっっっった"い"ッッ!!」
背面に走った激痛で目が覚める。
何が起こったのかわからないが恐らくかなり高いところから落ちたのだろう。
体全体に上から落ちていくなんとも言えない気持ちの悪い感覚が残っている。
つぶっていた目を開くとそこは真っ暗でここが何処なのかという情報は得られなかった。
場所はわからなくとも周りの様子がわかれば少しでも違ったのだが...。
今度は周りの空気や匂い、音から情報を得ようと集中する。
すると頭に生暖かい"何か"が垂れているのに気がついた。
その"何か"を触って考えると正体に気づきぞっとする。
「ヒッッ...」
頭から血が流れているのだ。
落下して血を流すほど強く頭をぶつけたとなるとこの後時間差で倒れてしまいそうで怖い。
よくよく考えると目が覚めるまでの記憶がない。
眠っていたのだろうか、何かの衝撃で気を失っていたのだろうか、それすらもわからない。
ただただ、急にこの暗闇が怖くなった。
取り敢えず早く目がこの暗闇に馴れてくれれば状況は変わると思ったが一向に視界は暗闇に呑まれたまま。
時間が経つにつれて恐怖心が増していき不安になっていると後ろの方から声がした。
「お前ッ..!なんでッッ...」
「..!!..誰か居るんですか?まだ目が慣れてなくてよくわからないんですよ..」
取り敢えず自分以外に人がいることに安堵し相手が居るのであろう方向に振り向いて声をかける。
しかし相手の声から怒りが伝わってきてここは来てはいけない立ち入り禁止エリアだったりするのだろうかとまた不安が増える。
「すみません...ここが何処なのかわからなくて..真っ暗で何も見えないので..」
「...⁉...あぁ...成程..」
そう言うと相手の口調が和らいだので納得してくれたようだ。
少なくとも理解のある人でよかった。
「君、名前は?」
「...わかりません..ここに来るまでの記憶がないらしく...」
すると相手は一気に優しい口調になり「それは大変だね」と言ってくれた。
「となるととても言いにくいんだけど....」
「何がですか?」
相手がもごもごと口ごもる。
何がそんなに言いにくいのだろうか。
「...えっとね..実はここ、あの世と現世の中間地点なんだよね...」
「...は?」
この人曰くどうやらここは死者、または死にかけの人...いや、魂が来る所らしい。
もう少し先には天国、地獄へのワープホールのようなものがあるらしくこの人はそこを目指していると自分を見つけたらしい。
「ということは...あなた死んだんですね..って..あぁ...すみません!」
言ってしまった後失言に気づくがもう遅くすぐに謝る。
「大丈夫だよ、気にしなくて。俺は確実に死んだ、覚えてるしね。でも君はわかんないな...まぁ死にかけであって生きていたとしてもここは結構奥だし助からないと思うけどね」
つまりあの世への入り口に近いところに落ちるほど死が近い状況だということだろう。
生きていたとしても助かる見込みはほぼほぼゼロ、と。
ここは潔くあの世行っとくかぁ。
「俺に掴まってていいよ?しっかりあの世まで連れてってあげるから」
「ありがとうございます」
最初怒っていたように聞こえたのはきっと自分以外に人がいて驚き、私が死んでいることに憐れんでいたのだろう。
とてもいい人そうだ。
この人なら信用できるかもしれない。
握ってきた手を握り返し一歩踏み出した。
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