鼠と白馬

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鼠と白馬

 俺は基本、ノリと愛嬌で生きてきた。友達も知り合いも多い方だと思う。ただ、誰かと深く付き合ったことは、大学時代に手酷く振られた彼女も含めても、ない。今リックと一緒に暮らしているが、他人と同じ空間で寝食を共にするのは、初めての経験だ。  リックはどうなのだろう。俺は横目で隣に座る男を盗み見る。  彼は文句なくイケメンだ。日本人の俺からすると、金髪青目で長身の細マッチョなんて、米を食う農耕民族が平伏してしまうくらいのいい男だ。なんかもう、鼠と白馬くらいに種族が違う。雄くさいマッチョな野郎は白人にも黒人にもラティーノにだっているし、俺の周りにはギーク(技術オタク)も頭でっかちなデグリー(学位)をもった男も女も沢山いる。でもリックは、俺の偏った感想を抜きにしてもカッコイイ。  リックは人混みの中でも目を引く清廉さがある。こういうのを、掃き溜めに鶴っていうのかな。よく人を見て気遣いができるし、かといって情に流されることなくリーダーとして冷静で的確な判断を下す。VP(バイス・プレジデント)なんて肩書きは伊達じゃなく、数十億単位で予算が動く事業内容を法務や財務、税務、会計とどんどん進めていく。いちプロジェクトのコーディネーターでしかない俺だったら、ことの重大さ、責任の重さにあっさり胃をやられていると思う。  以前リックにそんなことをいったら、今は人の金で思うようにビジネスに挑戦できて、気楽でサイコーだろう、と笑っていた。何でもデクスターらとスタートアップで会社を始めた学生時代は、資金繰りにかなり苦労し、長時間労働と金の心配でわりとボロボロだったらしい。リックが謙虚で人に対して丁寧なのは、そんな創業の際の苦労があるからかもしれない。  ああ、イケメンは経験値も半端ねぇ。  つい、じっとリックを見つめていたら、イケメンが横顔でふっと笑って肩を寄せてきた。やべっ、俺キモかったよな。 『リョータ、そんなに可愛くされたら、I’m giving in to you』  ・・・き、キモくはないのか?白馬にとっちゃ、地を這う鼠なんて可愛いもんか。でもgive in to youってなんだ? 『リックはクールだよな』  つい、心の声が漏れてしまう。 『リョータはスイートでinnocentだ』 『えーっと、イノセント・・・』 『ふふっ、ようは君は素敵だってことだ。分かってる? 俺、リョータを今口説いてるんだよ』  リックがしっかりと俺を見た。空色の眸だ。ライトブルーは寒色系なはずなのに、リックの青は温かいと思う。すっきりした鼻筋に、少し薄い唇。男らしい顎から太い首にかけてのラインにがっちりした広い肩。俺は女の子が大好きだが、圧倒的なイケメンを間近にぼうっとしてしまう。白馬の神々しい美しさの前に、鼠は平伏す以外、何ができるというのだ。  リックの目が細まる。 『リョータ、俺は君が好きだ。これからも一緒にいて欲しい』  俺は頷いた。どくどくと鼓動が身体中に響いてうるさいくらいだが、頭の奥でどこか冷静な自分が訴える。ちゃんと言葉にしないと駄目だ。伝えなきゃ。 『リック、俺もお前と一緒にいたい。。俺も、リックが好きだと思う』 『・・・好きだと思うか。。ん、嬉しいよ、リョータ』  リックの顔が近づいてきたので俺は目を伏せ、俺達はキスをした。    
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