4.恋路は深淵で静謐に花めく

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 私達を皆殺しにする旅?  私は耳を疑った。疑わざるを得ない。  彼女は、アトラミス・アルドノート・アイヒベルガーは、連邦領アイヒベルガー領主の娘として隣接するフレンツェル領の領主討伐を至上の任務としていたのではないのか。  その為に騎士団の中隊長グラヴァルや、治癒術士組合長の娘である私を指名してまでパーティを編成したのではないのか。 「そんな……ナインハルト追放は、貴女も……」 「同意していた。と」  彼女の笑みは深く、深く、それはもう、何故笑みを浮かべているのか分からないほどに深かった。 「わたくしがナインハルト様を追放したのはね、貴女達の妄言を真に受けたからではありませんよ」  その顔を間近に迫らせた彼女が私の砕けた左腕を踏み(にじ)る。視界が赤く、あるいは白く染まるほどの激痛。私はなにか言っていたと思うが分からない。  そんな私に発情と言っても良いほどに瞳を潤ませ頬を上気させた彼女が舌なめずりする様だけは見えた。 「……な、ぜ……どうして」  (なみだ)(よだれ)も拭う余裕は無い。この激痛、この混乱。ただ切れ切れに彼女に問う私。 「何故? どうして? 聞きたいのはこちらの方です。わたくし達の至らぬところを十全に満たして来たナインハルト様を何故邪魔者と罵ったのですか?」  私には答えられなかった。ナインハルトはまさしく至上の六人目だった。彼以外の何者も、勇者であろうともその代わりは務まらない。私はそれを承知で彼を追放したのだ。合理的に考えて彼を追放する理由は全く無い。 「まあお答えいただくまでもなく、わたくしは承知しておりますとも。彼がまつろわぬ民であるが故に、でしょう?」  その通りだ。敢えて彼を追放した原因は、彼の社会的地位に他ならない。 「何故と問われるなら、だから、がわたくしの回答となりましょう」
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