犬畜生以下の人間

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 地主の息子である栄一は援助交際している女との情事の様子をデジタル一眼レフカメラで撮影し、それを或るエロ動画投稿サイトにアップして収益を得ている。その争えない事実を町の人々は知っていながら何も咎めたりはしないのだ。寧ろ秘かに栄一の動画を観て楽しんでいる。しかし、独りだけ批判する者がいた。名を益荒男と言って名の通り見上げた人物なのだが、或る晩に町内会の飲み会に参加した折り、酔った弾みにこうメートルを上げたのだ。 「犬猫の動画をユーチューブにアップして収益を得ている奴を非難する気はないけど、自分の情事を撮った動画をエロサイトにアップして収益を得ている奴は犬猫以下だね。何でって犬や猫は恥ずかしい所と言えば、ケツの穴を晒すくらいだけど、エロ動画に出てる奴は同じ裸でもケツの穴のみならず恥ずかしい所を全部晒け出して醜態を披露するんだからね。そう思うと、人間って奴は金の為なら犬猫以下の畜生に成り下がるんだなあと呆れた次第さ。だって恥を晒して金を稼ぐなんてサイテーなことじゃねえか。だから地主のボンボンも然りで犬畜生以下って訳だ」  元々益荒男は特異で異質な存在なのだが、それが為に町の人々に煙たがれ、敬遠されがちだったし、町の人々が皆、地主の茶坊主なので、くだんの発言をして以来、心無い者たちの間で悪し様に噂されるようになり、流言飛語が飛び交うと、地主の息子にも伝わってしまったから大変なことになってしまった。益荒男排斥追放運動が町全体で巻き起こったのである。  独りの異質な者に皆でハラスメント行為をする場合、皆の結束力は鬼のように強くなる。それは集団主義全体主義に基づくからであって集団心理というものは同調的で愚かしく卑劣なもので町の人々は皆で益荒男にハラスメント行為をすることに喜びを感じ、共有し、謳歌する。衆口金を鑠かすで異質な者が正義であってもその真の正義を抹殺してしまうのだ。  町の人々の正義は世間的観点から見て成功の象徴たる地主の為すこと全てなのであった。従って町の人々は挙って益荒男の正義を抹殺しようと彼のことを栄一に伝える際、讒言もし、誹謗中傷もするのだ。  栄一は小さい頃から町の誰からも褒められ、煽てられ、ちやほやされ、甘やかされ、優しくされて育って来て知らぬが仏で町の誰もがいい人だと思い込んでいるから町の人々の言うことを信じて益荒男を悪者に仕立て上げ、町のリーダーに祭り上げられた立場上、先頭に立って皆と一緒に益荒男を排斥追放しようとする。  と言っても警察沙汰になっては身の破滅だから皆、法律に抵触しない範囲でハラスメントを行う。益荒男独りの為に町の誰もが佞姦邪智で奸曲ある者となり、狡猾に嘘をつき合う悪人と化した訳だ。また、小人閑居して不善を為すで大したことをする訳ではないが、益荒男に対し態と避けてみたり、無視してみたり、これ見よがしに囁き合ってみたり、笑い合ってみたり、当てつけがましく咳払いしてみたりするのだ。そうして何かと干渉しようとするのだ。  だから益荒男は町の人々がノミのように鬱陶しく感ぜられ、益々人間嫌いになって孤独になった。孤高と言っても良かったが、年を追うごとに犬畜生以下の人間が増殖して近い将来、跳梁跋扈してしまうであろう趨勢を考えると、益荒男は理不尽にも肩身の狭い思いをこれからもっともっとしなければならない運命になるだろう。嗚呼、世も末だねえ。
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