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叶う
幼い頃夢中になって見た図鑑に、その魚は載っていた。
濃い茶色のヌルッとした胴体に、怪しく緑色に輝く目。
水深500~1000メートルの海底で暮らすその魚に当時の私は強い憧れを抱いた。
およそ8000万年前と言う太古の昔からその姿を留める生きた化石ラブカ。
誰にも影響されることなく、静かな深い海の底で己の思考にのみ耳を澄ませる。
今の私にとって、ラブカの生き様は理想的だった。
『ラブカになりたい。
この目を閉じ、煩わしいものを遮断したい。この耳を塞ぎ、くだらない喧騒から解放されたい。
そうして一人、深い思考の海で揺蕩っていたい』
私のその願いは突然叶った。
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