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7. 茜空 ※
翌日が休みだった俺は新しく買ったばかりのゲームを徹夜でやりこんでいた。
朝仕事に行くたろちんを見送り、そのまま食事もとらずにゲームを続ける。
うわぁと叫ぶたろちんの声と、勢いよくバンバンと窓を開ける音で目が覚めた。
部屋の空気は蒸し風呂のように暑くて湿度が凄い。シーツは汗でベタリと張り付き、体がやけに熱かった。
頭をもたげると世界がぐるぐる回わ…る。
エアコンをつけてゲームをしていたはずなのに。どうやら途中で寝落ちしてしまったようだ。
背中にエアコンのリモコンが触れる。寝ながらリモコンを消してしまったらしい。あぁやってしまった。
それからしばらくの間、俺の体調は復調しなかった。気温が高めの所にいると、すぐに頭が痛くなって吐きそうになるし時々ぐらぐらとめまいもした。
できるだけクーラーの効いた室内で過ごすようにし、栄養や睡眠をしっかりとるよう心がけた。それが効を奏したのか最近になってやっと症状が落ち着いてきた。
体調が優れないことをたろちんに心配され外出も最低限になった。
できるだけ家でのんびり過ごすようゴミ大臣も食事担当も買い出し部隊も全部の当番を免除された。
世の中の関白亭主とかお付きの人がいる人ってこんな感じなのだろうか。
待ち時間が退屈だけど俺の為にフライパンを持ってるたろちんの姿を眺めるのは悪くなかった。
今日は外出をしない代わりに、よく分からない洋画を観ていた。潜入したスパイをめぐるアクション映画だった。
俺はあんまりアクション映画に興味が無くて、早く濡れ場に移るか一刻も早く終わる事を期待していた。
画面の中の男たちは追いかけっこと撃ち合いに余念が無いように見えた。
カーテンを閉めきった暗めの室内、ソファの隣に座るたろちんの手に触れる。
たろちんの手はひんやりしている。ということは相対的に俺の手が熱いということだ。
エアコンが効いているのに一人熱が取れない俺は、汗ばんだ手でたろちんにまとわりつく。
半開きの目で下からたろちんを見つめる。映画を観ていたはずのたろちんと目が合った。
にやっと笑うと、たろちんは負けたという顔をした。それを合図に俺はたろちんに全体重を掛け重みで潰した。
ぷにっと触れる唇。
そういえばひげを剃り忘れた。角度によってはじょりじょりしちゃうだろうな。
甘噛みした唇から首筋、さらに下へと降りていくと、たろちんからは「あっ」という可愛らしい声がこぼれ落ちた。
*
いつも家に来る人がいた。親父の会社の後輩。親父よりも一回り若かった。
俺は中学に進学しても学校には通学せず、相変わらず家に引きこもっていた。
親父はそいつに俺の不登校のことを話したらしい。俺に関心をもったそいつは俺に会いに来た。
そいつには不登校の弟がいて、その弟はそいつと話合いをした結果、学校に行くようになったと言う。
小学校から学校に行っていない筋金入りの俺とは状況が違いすぎると思ったんだけど。
親父がいる時に来て一緒にご飯を食べていく。説教とかされるのかと警戒していたら俺にぽつぽつと質問をするだけ。邪魔にもならず目障りにもならなかった。
親父が仕事の時にも、休みだったそいつは勉強をみるといった口実で遊びにきた。本を読んだらと何冊かの漫画や小説を置いていく。
家にこもっているのは良くないとショッピングモールに連れ出された。
俺には買い物する金なんて無いし、そいつも通路のベンチでただ持ってきた本を読むだけ。
つまんなさに耐えかねて俺もそこで本を借りて読むようになった。
図書館にも連れて行かれた。俺専用のカードも作ってもらった。そのとき初めて社会的信用を得たような気がしたんだろうな。妙に誇らしく感じた。
漫画雑誌はゴミ捨て場から拾って読んでいた。小説はほとんど読んだことがなくてルビ付きの子ども向きの探偵小説から手始めに徐々に対象年齢をあげていった。
しばらくすると本を読むという行為が苦痛じゃなくなっていた。やつ、よういちが褒めてくれるから。
しばらくするとよういちの家にも遊びに行くようになった。
2DKの古びたアパート。遊びに行っては次に借りる漫画やラノベを物色したり、二人でダラダラとゲームをしたりアニメを観たりする。腹がくちくなればその辺に落ちていたカップ麺で腹を満たした。
物が適度に散らばったよういちの部屋は居心地がよかった。漫画やゲームもあったから、合鍵を借りてよういちの留守中も勝手に出入りしていた。
ある日、よういちの部屋の畳でうつらうつらしていたら、よういちの顔が俺の前にあった。ぶちゅうって濡れた唇が触れる生々しい感触。気がつくと唇を吸われていた。
よういちが俺の顔をじろじろと見てくることがよくあった。そんな時は「何?」と聞くと目を逸らされたり「かわいいな」といって顔や腹を撫でられていた。それが目前の行動に結びつく。
よういちは俺のことをかわいい、きれいだと言いながら唇を何度も顔や首に落とす。女の子に対するような褒め言葉に、俺は悪い気がしなかった。
普段感情を表さず素っ気ないよういちが、俺だけを見て愛しくてたまらないもののように熱い目を向けてくる。強く求められる感じに嬉しくなって、俺もよういちの唇に同じように返した。
よういちは俺を抱き上げると湿った万年床に運んだ。服をたくし上げちうっと胸の突起を吸ってきた。そこを吸われると変にむずむずしてこそばゆい。
赤ちゃんに乳房を吸われている母親はこんな感じなのか。弟の赤ん坊姿を思い出した。
よういちの手はスエットの中の俺の性器に触れてきた。そこは自分で触りたいのに触らない場所。
変なおじさんに触られて変な感じになった。母と風呂に入った時に気になって触っていたら穢らわしいものを見るような表情をされた。
それから触るとなぜか罪悪感を覚え、敢えて触らないようにしていた。
スエットや下着を脱がされ下半身を剥き出しにされる。空気にさらされ縮んだ性器をよういちは熱をはらんだ手で優しく撫でさすった。そこをよういちに触れられると異様に気持がいい。
俺は息を呑みながらよういちの手の動きを眺めていた。下半身から発生した快楽は股の間に集中的に集まり、ずきずきと熱をもつ。
もたらされる刺激で俺は尿を漏らしそうになっていた。堪えていると既に少し漏れているのか、よういちの手の中からくちゅくちゅっと水音が上がる。
指先で先端を強く擦られた。自分から声が漏れる。
強い刺激に何かが急激にせり上がり、よういちの手の中ではじけた。目蓋を閉じているのに頭の中が真っ白になるような強い快楽とびくんとした震え。
気持ちが良すぎて力が入らず腰くだけになった。
こんなに気持ちいいから母に嫌な顔をされたのか。だから変なおじさんは俺のアレを触り、自らのアレを握らせたんだ。衝撃でぼんやりした頭でそう思った。
部屋は空調が効いていなくて汗ばむほど暑い。顔を上げるよういちから汗のしずくがぽたぽたと落ちてきた。
目が合うとにやっと笑みを浮かべ、再度俺にむしゃぶりついてくる。
普段と違う傲慢でいやらしくてケモノのようなよういち。
快楽に震えながら喰らわれるのを待つ羊のような俺。置かれた立場に気がつくとスリリングさに背中がぞくぞくしてきた。
俺をむさぼるよういちの揺れる背に、俺は手を這わせていた。
身体が熱く変動するさまを、身体の快楽をよういちによって知らされた。
よういちと部屋にいるときは殆ど服を着ることがなくなった。
俺はよういちの要望に何でも応じた。俺を強く求めてくれる者はよういちしか居なかったから。
変な器具をお尻の穴に入れられても、性器を入れられて出血しても、痛くてたまらなくても俺は我慢をしていた。俺はよういちを失うことを恐れるようになってしまった。
よういちは俺の胸をいじるのが好きだった。あまりにもいじるので普段からぷっくりと腫れてしまった気がする。
俺を上に跨がらせるのも好きだ。俺の骨ばった身体を持ち上げ、そのまま落とす。性器だけでバランスをとる不安定な状態から俺は下に突き落とされる。下の性器からもたらされる圧に喉から何かが飛びだしそうになった。
足を持ち上げ奥まで突かれるとずんとした鈍い痛みとキリキリする痛み。ぎりぎりまで引かれるとぞくぞくする変な気持ちよさを感じた。
中にこすられると変な気持ちになる場所がある。そこによういちが当たるよう自分から腰の角度を変え調整した。
俺を背後から突きながらよういちは俺の性器をしごく。中の痛みと時折カリに爪を立てられる痛み、そしてそれらに混じる気持ちよさに俺は泣き声のような声をあげて薄い白濁を吐き出していた。
ある時から、よういちは姿を見せなくなった。
俺より幼い少年に強制わいせつをして警察に捕まったのだ。他にも幾つかやらかしていたらしい。俺も隠れてビデオに撮られており話を聞かれた。
騙しやがってと怒る親父曰く、過去にも同様の事件を起こし、前科があったらしい。
よういちはがさつで粗野な感じの親父の職場の雰囲気には合わない色白で物静かなタイプだった。
前科の話を聞いて納得した。不登校の弟がいる話も俺に近づくための嘘だったのかもしれない。
犯罪だなんてそんな事知らなかった。
俺だけを見てくれていると思ったから、恥ずかしいのも痛いのも我慢したんだ。
よういちにとっては誰でもよかったんだ、そう思うと、ただ、悲しくて悔やしかった。
*
夕飯に間に合わせるため、早めに買い物に出る予定がいろいろ長びいて18時を過ぎてしまった。
数日ぶりのたろちんとの密接なコミュニケーション。久しぶりの肌の感触はいいな。ぬるりとした感触を反芻して一人で赤くなる。
鍵を締めて屋外に出ると外はまだ明るく、西の空が赤く染まっていた。
夕日で赤く染まる空を茜空というらしい。今、俺の頬が赤いのもごまかせる気がした。
雲は西から東へ流れる。
夕日がきれいに見えるのは、それを遮る西から来る雲がないということ。そのため翌日は晴れやすいらしい。
「明日も晴れだね、暑そう」
「俺、明日、外勤だった。干からびそう」
横にいるたろちんがうぇと言いながら笑っている。何の他意もない心からの笑顔。
夕日に赤く染まるその顔を俺はただただ眺めていた。
足を止めてしまった俺に差し出される手と笑顔。その中の太い指を何本かつかみ、俺は一緒に歩きだした。
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