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「君の猫だよね」
「はっ、はい」
少女は目を見開いて答える。
「名前はナナ。逃げ出したのは30分ほど前です。ほとんど外に出たことない子で、車にびっくりして、走って行ってしまって、どこを探しても、いなくて……」
「わかった、一緒に探してあげるから」
釈然としない点はあったが、猫を探すなら早い方がいい。乗り掛かった舟だし、頼られた男のメンツもある。何より泣かれるのは辛かった。
「とにかく行こう」
少女を促して勢いよくドアを開けたが、なぜかさっき帰ったはずの女性が立ち塞がっていて心臓が飛び出そうになる。
「びっくりした! ま、まだ居たんですかっ」
「お休みのはずですよね。その子の依頼は受けるんですか?」
「いや、これはその、ボランティアみたいなもので」
「納得いきませんね」
紺のタイトなパンツスーツで威圧的に僕を見降ろすその姿は、丸メガネこそ無いが、アルプスの少女ハイジに出てくるスパルタ執事そっくりだ。
「じゃあ、どうすれば納得するんですか」
「私も一緒に探します。猫は昔飼っていましたし、知識は豊富です」
え。これは一体どういう展開だ。
「でも、なんで」
「薄いドアなので、聞こえてしまいました」
「いや、そうじゃなくて」
「猫の捜索は時間との勝負なのです。急ぎましょう」
「あ、はい」
口を挟ませる気は無いようだ。問答無用感がすごい。かと言ってこちらに不利になる要素は無いみたいだし、僕と少女はその女性を先頭に、ナナの捜索を始めることにした。
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