翅と指

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 暗室から出てくる先輩の顔は、ちょっとどころではなく面白い。顔全体をくしゃくしゃに縮めた出来の悪い梅干しみたいな姿を見るたび、私は心の中で「どうかこの人が一生誰からも恋しく思われませんように」と祈ってしまう。  きょうも先輩は顔面を梅干しへと変化させながら光の世界へ戻ってくると、 「あ、いたの」  と言い、私へグラスのような何かを傾けるモーションを行ってみせた。私は「お気持ちだけ、ありがたく」と返し、自らの鞄から水筒を取り出す。  先輩の淹れるコーヒーは、なんというか、不思議な味がするのだ。いつだったか、先輩のご友人は「ドブに落ちた犬みたいなテイスト」だと表現していた。笑えないところも含め、私はそれを『個性』だと思ってあげたい。
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