くらやみのむこうに。

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くらやみのむこうに。

 まぶたの上に、ぎゅっとハチマキをまいた。  それだけでは足らなかったので、ほかにも手ぬぐいとか、いろいろかさねてまいてみた。  それでようやく、ぼくのしかいはまっくらになった。  まっくらやみだ。ぼくは今、まっくらやみに立っている。  すごくこわい。  何も見えない。  でもぼくは、このまっくらやみの中を歩かなくちゃいけないんだ。  家のげんかんから、中へ。ぼくのへやは二かいだ。二かいまで、にもつをおきに行かないと。  こわくても、ぜったいにハチマキは外しちゃいけないんだ。  くらい、くらい、くらい。  足のうらの、かいだんを上るかんかくと、聞こえる音だけがたより。  ぼくはどうにかかいだんを上って、かべぞいに歩いて、自分のへやにむかった。ドアを開けて、かばんを投げこんで、それだけで本当につかれてしまった。  これで終わりじゃない。ここからぼくはかんだんを下りて、せんめんじょに行って、手あらいとうがいをしないといけない。  それがおわったら、ラジオをもってきて、リビングのソファーにすわって聞くんだ。  ラジオは、たぶんせんめんじょにおいてある。他のものを落とさないように気をつけながら、ラジオだけもってこないといけない。  見えないって、とってもむずかしい。でもぼくは、やらないといけないんだ。  こわい、こわい、こわい。  かいだんを、そろそろと下りる。手すりにつかまって、足のうらでかいだんのかんしょくをたしかめながら。 「あっ!」  足が、何かをふんだ。  ぼくが昨日、イライラして投げすてたくつ下だってわかった。つるっとすべって、そのままかいだんを落ちる。何も見えない。こわい。頭をぶつけてしまったらどうしよう。  そう思った時、声がしたんだ。
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