#1 恋からはじめよう(JK×高校教師)

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#1 恋からはじめよう(JK×高校教師)

※以前書いた同名の中編小説(削除済)を短編にしました。これにて完結です。 ☆ ・登場人物・ 水無川鈴  高校3年生 水無川侑斗 高校教師、凛とは縁戚 ☆ 「きゃあ! 水無川(みながわ)先生だ!」 女子の黄色い声が聞こえ、水無川鈴(みながわ・りん)は僅かに嫌な感覚を覚える。 校舎は中庭を挟みロの字型になっている、その向かいの廊下を若い男性教諭が歩いていた。こちらは3階、向こうは2階、こちらの騒ぎには気づいていないらしい。涼しい顔で颯爽と歩く。 「やーん、今日もかっこいいー!」 「眼福、眼福~」 ただでさえ比率的に女性の多い高校だ。そこへ来て顔面偏差値が高い体育教師など、格好の餌食だろう。それを行動に出すか出さないかは、女生徒の裁量だろうか。 水無川侑斗(みながわ・ゆうと)が赴任してきたのは、鈴の入学と同じだった。もちろん侑斗の赴任を鈴は知らなかったし、侑斗も鈴がいるから赴任してきたわけではない。だが鈴の入学は知っていた、だから通知が来るとすぐに知らせた。遠い親戚だ、鈴が本家、侑斗が分家、遠い昔に分かれたが、今なおその関係は続いている。 曰く。 江戸時代にまでさかのぼる。一代で財を築いたご先祖が、仲違いを失くすために本家に嫁ぐのは分家からと定めた。将軍家の御三家のごとく、分家は本家を守り続け、その慣習は今なお連綿と続いている。 鈴の母も分家から輿入れし、今は鈴の兄が侑斗の妹と婚約中である。侑斗の妹・夏菜子(かなこ)は現在大学4年、卒業したら結婚することになっている。 もうすぐ侑斗とは義理の兄妹になる、それが鈴にはどうにも気に入らない。 だが気に入らないことは誰にも言えるはずがない、永遠に封じなくてはいけないことだ。3年間、同じ学校に通えると判って嬉しかったことすら隠すしかなかった。 「あ、2組の安西! まあた色目をつかいおって!」 そんな声にすら嫌気がさす、鈴は横目でそれを確認した。 体形も雰囲気も大人びた女生徒だ、侑斗の前では特にそれを感じる、本人も意識をして行っているのだろう。 二言、三言会話し、侑斗はじゃあとでもいうように手を振って離れる。侑斗の周りには女性が多い気がするのは、気のせいではないだろう。 「ざまあみろ、安西~」 そんな声が聞こえたのか、女生徒がこちらを見上げて睨みつける。初めはその様子を窓に貼りついて見ていた集団に、だが鈴がいるのも見えたのだろう、すぐに標的を変えて睨まれ、鈴は内心肩を竦めて視線を反らした。 (勝手にやきもちやかれてもねぇ) 同じ姓だ、そう珍しい名でもない、どんな関係なのだと皆に迫られた。 いっそのこと夫婦だとでも言えたら、どんなに気持ちがいいだろう。 血の繋がりの無い兄妹なのだくらい言ったら、皆はどんな顔をするだろう。そんなことを妄想しつつも遠い親戚だと真実を伝える。 途端に紹介しろと言われたのは、完全に無視をした。侑斗が自分も知る人間と交際するなど、絶対にありえない。 いつかどこかの誰かと結婚するだろうが、それは自分が足元にも及ばないような完璧な女性にしてほしいと、どうしようもないことを望んでしまう。 そんな醜い感情にため息が出た時──。 『水無川鈴さん、3年5組の水無川鈴さん、職員室まで来てください』 校内放送がかかり驚いた、一緒に歩いていた友も心配そうに鈴を呼ぶ。 踵を返した、その時まだ対面の廊下を歩いていた侑斗と目が合った。 何事かが起こったのは判ったのだろう、心配そうな瞳と合って、鈴は僅かに嬉しくなる。 できればあなたの瞳には、私だけが映っていて欲しい──。
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