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三十四話 〜限界を求めて
なんとか一発、シラカバへと食らわせた僕は、続け様に顎へ、頬へと拳を打ち込んでいく。
拳がしっかりとシラカバの体に、肉に、はまる感じ……
──これは、効いてる!
見れば、シラカバが僕を捕らえ切れていない。
黒目が、右に左に泳いでいる。
解蒸すると、ここまで性能が変わるのか……!
まるで体が羽になったように軽い。
思った通りに動いている。
体感でいうと、2秒も速く動いている気がする。
狙った場所に、イメージ通りに拳が、蹴りが、動いていく。
気分爽快!
シラカバの鎧もだいぶダメージを喰らってる。
もちろん、彼の綺麗な顔も!
「シラカバ、これからは僕のターンだ!」
甘んじて受け続けるシラカバに、僕の猛攻は止まらない。
僕の右腕も解蒸のお陰で、全く反応が違う。
瞬間瞬間で形が変わる。
それも届きたい場所へ腕が伸び、拳が変わっていくのだ。
これはかなりのカウンターだ。
「……いい気になるなよぉっ!!!!」
怒声と一緒にシラカバは左腕を盾に変化させるが、僕の兜が赤字で言う。
『──破壊可能』
「うるざぁーいっ!」
短く太く右腕を変化させ、鉄球をぶつける要領でシラカバへと突っ込んでいく。
盾のそれは、見事に粉々に砕けた。
ガラスが割れたかのよう。
「……なんだと……!」
「僕のターンだって、言っただろっ」
しっかり振動を与えて壊す、そうイメージしただけなのに、これほどの威力を出すとは驚きだ。
粉砕したおかげか、シラカバの腕はすぐには再生できないようだ。
一歩前へ踏み込もうとしたとき、頬がぬるい。
頬を拭うと、血だ。
「……目から血なんて、なかなかに滑稽だなぁ……」
「そっちこそ、かなりダメージ喰らってんじゃん……」
空中線となった今だが、足元が硬い。
コンクリートの地面があるぐらいの感覚がする。
これが、カゲロウが言っていた、蒸気で足場が固まった、というヤツなのかも。
すごく戦いやすい。
頭も冴えてる。
むしろ、今が、一番……!
「……げぇっ……!」
唐突な吐き気に、僕は止められず、口から吐瀉物をまき散らした。
途端に崩れていく足元に、僕はシュルシュルと落ちていく。
地面すれすれでどうにか着地をするが、口の中が、鉄の味だ。
唾を吐き出すと、真っ赤だ。
そんな僕を笑いながら、シラカバの攻撃が始まった。
「隼、やはりその体じゃ、保たないんだよ、解蒸はぁ!」
すぐに両腕で盾をつくるが、どんどん押されていく。
それに、足が、膝が、笑いはじめてる。
……なんだこれ。
「自分の限界を超えると、体はちゃんと応えるんだよ。残念だったな、隼!」
「……まだだ!」
蒸気石の残弾は、あと7つ。……いや、6つ。
これで肩がつくとも思えないけど、やるしかない。
シラカバの鎧のダメージは大きいが、解蒸したとたん、修復が始まる。
「朱、なんて鎧、創ったんだよ……!」
氷の拳を避けた瞬間、何かが見えた。
見える絵は、イメージに近い。
サブリミナルのように、チカチカと視界をよぎっていく。
「よそ見している暇があるのかっ?」
右ストレートをもろに喰らった。
おかげで面の右側が割れてしまった。
さらに壁にぶち当たった背中が痛いし……歯も、折れた……。
もう、やだ。
やだ………やだよ…………
「泣いてるのか? は? 情けない」
「うるだい! いだいんだよっ!」
……でも、内臓が抉られても、僕がやるしかない。
きっと、僕は、このために生まれて、死ぬんだ───
「なんだ、命乞いしないのか」
「……やるときはやるんだよ、僕でもね!」
素早く立ち上がったとき、視えているそれが、何かがわかった。
蒸気の粒子だ。
これは、原子……なのか?
だが、粒子と表現する方がいい。
体内にある、蒸気の小さな小さな粒がまぶたの裏で視覚化しているような感じだ。
シラカバが瞬間的に飛び出した。
だが、原子の波が、揺れが見える僕に、それを交わすことは簡単に感じる。
右腕を立てて、いなせばいい。
「俺の動きが、見えるとでも!?」
次から次へと、あられのように降り注ぐシラカバの拳を蒸気で滑りながら避けていく。
さらにシラカバに触れた瞬間、よく視えた。
彼のなかにある、蒸気にまとわりついた起爆の粒子と、爆弾の粒子が。
右肺付近に溜まったそれを排除すれば、彼は爆発しないし、起爆もない。
これは自信をもって言える。間違いない。
どう取り除こうかと考えるが、もう、目の奥が熱いし、痛い。
目が外れる痛さだ……。
「……つっ! 長くは無理か」
「これで、ケリをつけるぞ、隼!」
膝をついた僕に、シラカバが飛んでくる。
右腕を刀にし、横に振る。
それはシラカバの脇腹をかするだけで、致命傷にはならない。
かわりにシラカバの蒸気の圧縮球……あの、僕の腕をちぎった球が向かってくる───
左手で目を擦るが、もう、右目が見えない。
「嘘だろ……」
───もう、死ぬ…………
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