プロローグ

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 岬を回り込んだ小さな波が、緩やかな曲線を描く砂浜を洗っている。海は穏やかだ。爽やかな初夏の日差しと共に、午睡のような気配が入り江を満たしている。  水平線近くに小さな雲が浮いている。青いガラスを通して見ると、まるで水中の泡のようだ。ガラスの破片越しに、しばし、その雲の下の水平線の彼方を見つめる。  どれほど高性能のレンズを使ってもここからは見えないが、その水平線のはるか先に、異国の小さな島があるのを彼は知っている。  人魚とガラスにまつわる、古い言い伝えのある島が。
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