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平日の午後、買い物から帰ると私は夕飯の支度を始めた。
まな板の上でネギを刻む。
「勇一、夕飯出来たわよ」
二階の部屋の外から呼ぶが返事は無い。
ゲームなのかYouTubeなのか、中から音が洩れてくるのでいる事はいるのだろう。
仕方なく夕飯をトレーに載せ、声を掛けてから部屋の外に置く。
勇一の顔立ちと身長の高さは主人譲りだ。
暫く碌に顔を合わせていないが。
一人きりで食事を終え、足音を潜めて階段を上がり勇一の部屋の前を窺うと、皿やコップの中身は綺麗に平らげられていた。
ほっと息を吐く。
思春期の男子の考えてる事は本当に分かり辛い。
中学入学を境に人間関係や学習面での複雑な悩みを抱え、瞳から光が消え内に籠るようになった。
イジメもあったようだ。
そうした事に向き合う余裕を持てなかった事には後悔しかない。
脳の中で憂鬱な記憶を閉じ込める為の器が膨れ歪んでいく。
中に詰め込んだものは腐臭を放ち溢れ、体内の血まで濁らせる。
頭痛を堪えながら食器を洗い、テレビを付けてソファに身を沈めた。
子宮。
子宮はきっと柔らかく、このソファよりも弾力があり、ベッドの中よりも温かいのだろう。
胎児は子宮の壁に守られ、羊水を揺り篭として夢を見られるのに。
母たる今、胎児の時の記憶があったなら。
もう一度子宮に戻れたなら。
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