終章

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 自分は作られた人間なのか――?  さすがにそこまで自分自身の存在を疑うことはないのだが、しかし実験体という言葉の強さは気になってしまう。  それに実験体というなら、何らかの実験の被験者であるはずなのだが、それらしい機関が周囲に現れないというのもおかしな話だ。もしや気づかない間に観察されているのかもしれないが、さすがに現実的ではない推理だろう。 「お前の疑問はもっともだ。抗魔法――そして実験体か。ということは、お前はマナを打ち消す力を持っているわけか」  すらすらと、ルークはいった。 「はい。やっぱり知ってるんですか。この力は――」 「いや、知っているというほどではない。そういう人間が存在するという話を聞いたことがあるだけでな」 「でも、ということは、そういう実験は実際にあったと、そういうことですよね」  ならばいつ、その被験者に撰ばれたというのだろう。記憶がまるでない。少なくとも物心がついた後は。  ということは、それ以前のことなのか?  しかし、百歩譲って仮にそうだとしても、ロディという辺境の村人の一人でしかなかったハンスがなぜ、選ばれてしまったのだ?  当時のロディには、同世代のユキもいた。同世代で、しかも男と女という差違があったのだ。もし被験者に選ぶなら、ユキとセットであってもおかしくはない。だが現実には、この能力を持つのはハンスだけなのだ。 「魔法を打ち消す方法は、現在でも変わらず研究対象となっていることだ。俺に断定できるのはそれくらいだ」  そういったルークは、より一層、厳しい視線をハンスに送った。 「とにかく、その事実については一切の口外をするな。この話は俺とお前の中だけに封印する」  強い口調だった。まるで反論を許さないといわんばかりに。 「いいな? それがお前自身のためだ。お前がこの街で平穏に暮らしたいと願うなら、その秘密は秘密のままにしておけ――」
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