最終的に悪役の令嬢が破滅するような話

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アリエスの周囲へ与える影響は徐々に色濃く、鮮明に表れ出した。 アウルはもうアリエスに悪戯をしてはいない。 アウルはアリエスに恋をしたのだ。それも悪戯もできないほど強烈に。 それはアウルの友達、リッツも同様。 私は一年前、独りぼっちで可哀想なアリエスを少し気にかけてあげてほしいとお兄様に言った。 今ではその優しさめいたものを後悔している。 ついにお兄様までも陥落し、最近ではご友人のライド様までもアリエスにご執心のようだ。 そして、アリエスの魔手はロスター様にまでおよんでいる。 私は眩暈がした。 アウルはあの娘の気を引くためスポーツ等で良い所を見せようと必死になっている。 リッツはあの娘を恋人のようにエスコートして周囲を牽制することに躍起だ。 お兄様はお父様の跡を継ぐ勉強のための留学を取り止め、あの娘の近くにいようとする。 ライド様はあの娘を社交界に連れて行って自分の物であるかのようにアピールしている。 ロスター様は勉強を教えるということを口実にあの娘と二人きりになろうとする。今までそんなことは誰にもしたことはなかったのに。あれだけ強く賢い女性になれと言っていたのに、結局は女性らしく、少しドジなところのあるアリエスに特別な愛情を注ぐのだと思うと気分が悪くなる。 ロスター様はもう私の憧れたロスター様ではなくなっていた。 なんて醜いのだろう。 私が幼い頃から憧れていた男性はこんなにも浅ましかったのだと思い知らされた。 そして、周囲の男性が狂うと私の友達にも影響が出てくる。 ライザはアウルがアリエスにばかり構うようになってしまって露骨に落ち込んでいる。その表情はまるでこの世の終わりを迎えているかのようで見ていられない。 アンナはリッツを諦めることができたようだが、この西アルグ地方の男性の全てがアリエスに骨抜きにされているものだから、男性というものに幻滅したようで妙な趣向に走りそうで不安だ。 だが最も不憫なのはリィズだろう。 リィズはロスター様の理想の女性になろうと一生懸命学び、女だからと軽んじられることはもうなくなった。だが男性に引けを取らぬ強い女性になったリィズは今や社交界で疎ましく思われるだけの存在になった。 ロスター様に裏切られたことに心を病んでしまったリィズは家に引きこもってしまった。 この前会った時はあの聡明なリィズの面影は全くなく、それは酷い有様だった。 それもこれも全てあの娘が原因だ。 アリエス。 あの娘がこの西アルグ地方にこなければ、こんなことにはならなかった。 私はあの娘をこの西アルグから追い出したかった。 「ここはあなたのような出自のわからない娘が来るような場所ではないのよ。」 「あれはあなたの物でしたの?ゴミかと思って処分させてしまいましたわ。」 「あら、ごめんなさい。あんまり臭いから汚物かと思ってしまいました。」 「分不相応というものを学びなさい。あなたのような方には難しいかも知れませんが。」 「誰とは申しませんが、邪魔者はいなくなって欲しいものですわ。誰とは申しませんが。」 「人の心のわからない泥棒猫は少し痛い目を見るのも勉強ですわよ。」 私はあの娘に何度も嫌がらせをした。 私と同じように現状に戸惑いを持つ何人かの友達と共に。 数に任せて。立場に頼って。 それはまるで劇の悪役そのものだった。 こんなこと正しいと思ってやっているわけじゃない。 でもこの他に方法が思い浮かばない。 昔アウルを子供っぽいと言っていた私はどこに行ってしまったのだろう。 自分で自分が情けなくなる。 こんなこと、何の意味もない。 私はわかっているんだ。 私自身、既にアリエスの魔性の魅力の虜だということに。 だけどそれと同じくらい平穏な毎日を壊したあの娘が憎かった。
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