十五、熱は死んでも治らない。

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「そんな挑発には乗りませんぞ、私には若から毎年贈られる限定のサングラスがありますからな!」 「私は取り寄せまでしたキーケースをいただきましたがね」 「ぐぬ!? 私のはネーム入りですぞ!」 「私の方が値が張ると思いますが。そもそももう“若”ではないのにその呼び方はいかがなものかと」 「立場が変わろうと若は若なのです、この呼び名は私にだけ許された特権なのですぞ!」 「ほう? そう言われてみれば“騰殿”とお呼びしているのも私だけのようですがね」 「ふんぬうう……!!」  ああ言えばこう言う。  筋肉バカの恵に対し、IQで勝る颯懍は口論では一段上だ。  さすが騰がスカウトしただけのことはある。    しかし二人がそんな調子なので、肝心な煙管がいつまでも届かない騰は手持ち無沙汰になった指をぷらぷらと動かしていた。 「おい騰……あれ、止めんでええんか?」 「愛しの主人を取り合ってんだよ、可愛いだろ」 「どこがやねん、お前の目腐ってるんか」 「そんなこと言ってよ……」  騰はすぐ隣に来た志鬼の顎を掴むと、強引に自分の方に引き寄せた。 「お前だって俺のこと好きだろ?」  にいぃ、と、いやらしいほどお色気たっぷりに笑いながら言って見せる騰に、志鬼は一瞬固まったのち、ぷるぷる震える腕を振り上げると、騰の首を左右から挟むように斜めに手刀をくれてやった。 「痛てえなオイ、何すんだよ」 「何するねんはこっちの台詞や! 男同士で気色悪い! お前の教育の悪さは異常!!」 「俺が教育によくなったらおしまいだろうが」 「……でもあたし、志鬼さんが相手なら許せちゃうかもです」 「……奇遇ね千夜ちゃん、私も騰さんが相手なら憎めない気がするわ」 「ちょっとそこの奥様方!? 変な扉開くんやめてくれます!?」  騰と志鬼の絡みに引くどころか、目の保養とばかりに興味津々な奥様二人。  志鬼はいろんなところにツッコミを入れるのに忙しい。  元、組長の息子なのになぜか一番の常識人で苦労人である。
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