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__ピンポーン。
うつらうつらしていたせいか、いつもより間延びしたように聞こえるベルの音にパッと丸めていた身体を起こすと、私は急いで玄関の扉を開け少しだけ落ち込んだ。
「こんにちは」
肩まである黒髪を片耳に掛けながら柔く微笑んでいるのは、お母さんではなく三十代位の見ず知らずの女性だった。
白いブラウスにカーキーのサテン生地のパンツを履いて、とても品のあるお姉さんの優しい笑顔に思わずつられて笑顔をつくる。
「……こ、こんにちは」
「山田小百合ちゃんよね?」
「……はい」
「私は、こうい者です」
差し出された紙は大人達が挨拶を交わす時に交換する名刺という物で、初めて受け取った私は少し胸が高鳴る。
しかし、見知らぬ文字に思わず首を傾げた。
「……レンタルお母さん?」
「そう。今日一日、よろしくね」
と、また柔らかな笑みを浮かべると開け広げた玄関の扉から私を追い越し白いスニーカーを揃えて脱ぐと、速やかに部屋に上がる後ろ姿を眺めながらハッとする。
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