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「何してるの?」
声をかけたのに返事はない。傘の下にのぞく紺色のタータンチェックがかすかに揺れるだけ。僕は仕方なくそちらに足を戻した。
道路わきの小さな遊園の前で足を止めている彼女のそばまで行き、傘の中をのぞき込むと、彼女は忙しなく顔を左右に動かしていた。彼女が頭を動かすたび、肩のすぐ上でひとつにくくった髪が反対を向く。スズメのしっぽみたいだ。
「何やってんの。また何か落とした?」
言いながら彼女の視線を追う。そそっかしいところがある彼女だ。また何か大事な物を落としたのかもしれない。
「ちがうの……、なんだか呼ばれた気がして……」
言いながら彼女はずっとキョロキョロしている。「気のせいでしょ。ほら、もう行くよ」と声をかけたのに、いっこうに動く気配がない。
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