1.ふたごの超能力者

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1.ふたごの超能力者

「あんたたち、またこんなに部屋を散らかして。いつまでもゴロゴロしてないで、さっさと部屋を片付けて勉強でもしなさい!」  お母さんが部屋に入ってくるなりカミナリを落とす。 「四月から五年生でしょ? 高学年になったらお勉強は今までよりずっと難しくなるの。このままじゃついていけなくなるわよ!?」  ガミガミとしかりつけるお母さん。  もう、せっかくソファーでくつろぎながらファッション雑誌を読むお楽しみタイムだったのに。 「いいの。私はお勉強なんかできなくっても。将来はモデルになるんだから」  私は勢いよく立ち上がると、自分がのっている雑誌のページをお母さんに見せつけた。 「ほらこれ。可愛く写ってるでしょ?」  「オシャレ小学生のペンケースの中身、ぜーんぶ見せちゃいます!」と書かれたページのど真ん中、おめかししてほほえむ私。  写真写りはイマイチだけど、この中ではいちばん目立ってる。  ああ、やっぱり私って可愛い! 「まあ、確かに、私のむすめだけあって可愛いとは思うけど……」  お母さんの表情がゆるみかける。が、そこはお母さん、簡単にはいかない。  あわてて表情を引きしめたお母さんは、またしてもガミガミを始める。 「たかが読者モデルに選ばれただけで大げさな。いい? モデルになるというのは大変なことなのよ」 「そんなの分かってる。でもこの表紙にのってるノエルちゃんも七海ちゃんも、みんな初めは読者モデルだったんだから。私だってその内そうなるよ」  私はソファーから立ち上がると、じまんのサラサラヘアーをかきあげた。 「ほら、この美ぼう、プロが放っておくはずないし」  キラキラキラ~!   星が舞うような笑顔……をしたつもり。  だけど、お母さんはやれやれって首をふった。何よ、何か文句でもあるわけ? 「サナがそれでいいって言ってるんだからいいじゃないか」  助け船を出したのは、床に寝っ転がってクッキーを食べていた双子の妹のユナ。  だけどそんなユナを、お母さんはキッとヘビのようににらんだ。 「ユナ、あなた人ごとみたいに言ってるけど、この間の算数のテスト、サナよりひどい点数だったでしょ!?」  ユナはクッキーをくわえたまま「うぐっ」とうなる。 「あ、いや、それは……」  ちなみにだけど、この間の算数のテストでは、私は四十五点、ユナは二十八点。ユナは算数が苦手なの。 「いいんだよボクは。将来はサッカー日本代表になるんだから!」  ユナが口をとがらせる。  ユナは私の双子の妹で、サッカークラブに入ってるスポーツ少女。将来はなでしこジャパンだね、なんて近所でもウワサされてるんだ。  おまけに自分のことを男の子みたいに「ボク」なんて呼んでるし、服装も男っぽくって、双子なのに私とは全然ちがうの。  仮にも私の妹なんだし、ユナにはもうちょっと可愛い格好をしてほしいんだけどな。  顔はわりと似てるって言われるし、似合うはずなんだけど、本人はイヤがるんだよね。  ユナは私をチラリと見る。 「でも体育ではボクの方が上だし」  ムッとした顔で張り合ってくるユナ。なによ、そんなのスポーツやってるユナの方が上に決まってるじゃん。 「音楽では私のほうが上なんだけど」 「図工ではボクのほうが上だ」  もめる私たちを見て、お母さんがヤレヤレと頭をふる。 「とにかく、二人とも早く部屋を片付けて勉強しなさい!」  バタンとドアがものすごい音を立てて閉まる。  私とユナは顔を見合わせた。 「勉強は気が進まないけど、取りあえず部屋でも片付けようかなぁ」 「だね。取りあえず、見えるところだけでも片付いてれば文句も言われないだろう」  私たちがしぶしぶ片付けを始めたその時、どこからか声がした。 「ふっふっふ、今こそ力を試す時だワン!」  ポン、という音と一緒に出てきたのは、小さな茶色い犬。  そう、この犬こそが、あの夜、きたない人形から出てきた黒いもやの正体なの。 「コロちゃん!」 「コロ助!」  私とユナが同時に声を上げる。 「コロ助でもコロちゃんでもない。コヨトルだワン」  犬が訂正する。なんでも、なんとかコヨトルってのがこの犬の本名らしいんだけど、呼びにくいからコロちゃんでいいと思わない? 「コロ助の方が呼びやすいよ。なぁ、サナ」 「えー、コロ助なんて古くさい。コロちゃんで良いわよ」  コロちゃんは大きなため息をついた。 「まあコロと呼びたければそう呼ぶワン。それより、これは超能力をきたえるいいチャンスだワン」 「そうだな。超能力を使えば、部屋の片付けなんてすぐだな」  ユナがうなずく。  コロちゃんによると、あの夜、あの黒いもやに頭をおおわれた時、何か不思議な力を使って、私たちを超能力者にしちゃったんだって。  犬のくせにコワっ! 「さ、とっとと片付けるワン」 「そうだな。とっとと終わらせて、外に買い物にでもいこうよ。もうすぐ新学期だし、色々そろえなきゃいけないだろ」  ユナがウインクする。  私は本や雑誌を適当に机の上に放り投げなげ、うなずいた。 「そうだね。息ぬきに出かけよっか。キラキラペンの新色、欲しいと思ってたところだし。ユナにしては良いこと言うじゃん」 「ボクはいつも良いことしか言わないよ」  言いながら、ユナは部屋に向かって手をかざす。 「浮けっ!」  ふわり。  床の上に落ちていた雑誌やら教科書やらゲームやらが浮き上がる。 「ちょ、ちょっと待ってユナ、そんなにたくさん!?」 「これぐらい大丈夫。早く片付けようぜ」 「全く」  私たち双子は、あの彗星が落ちてきて以来、超能力が使えるようになった。  この「物を浮かせる力」もその一つ。  だけど、私とユナの力は、同じ「物をうかせる」なんだけど、少しちがう。  ユナは力が強くてたくさんの物を浮かせたり、重いものを浮かせる事ができる。  それに対し、私は浮かせた物を移動させたりコントロールするのが得意。  だから、超能力を使って部屋の片付けをする時は、ユナが一度ものを全部浮かべてから、私がひとつひとつ机の上や本だなの上に上げていくってやり方をしてるんだ。
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