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 田舎が静かで落ちつくなんて、うそだと由衣(ゆい)は思う。  夏夕の田園風景から聞こえてくるのは、蛙たちのけたたましい合唱。蝉の声。ハウリングを響かせる町内放送。縁側で戸にもたれかかりながら、ぼうっと由衣は田舎特有の音を聞いていた。  でも、さらに上を行く騒音は、彼女のすぐそばにある。 「ママママ! お絵かきするから見てて!」 「だめぇ、ママ、この絵本読んで!」  高すぎる声に、由衣は耳をふさぎたくなった。  じろっとそちらを見やると、双子の妹である静乃(しずの)柚乃(ゆずの)が母を取り合っていた。三歳児らしい独占欲を、ありのままぶつけている。 ──べつに、わたしはもう、そんなことはしないけどね。  小学三年生になった由衣にとって、母の取り合いっこなんて幼稚なものだ。でも、少しの羨望があることにも気づいていた。 ──ちょっと前までは、お母さんのとなりの位置は、わたしのものだったのに。  長年ひとりっ子でいた由衣にとって、双子の妹ができるという話はとても驚いたが、嬉しいことでもあった。生まれたら思いきりかわいがってあげよう。お母さんを助けて立派なお姉さんになろう。そう思いながら、大きくなる母のお腹を撫でた日々もあった。けれど……。 「ママ見て、くまさん上手でしょ?」 「うん、うまいよ静乃。この赤いリボンがいいね」 「ねえねえママ、これなんて読むの?」 「これは『ぬの』だよ、柚乃。ちょっと難しいね」  約三年前に由衣の生活に現れた双子の妹たちは、いまや当然のごとく母をひとりじめ──いや、ふたりじめしている。右にも左にも、由衣が座れるべき場所はない。  せめて妹が一人ならば、由衣も母のどちらかのとなりにいられたのに。でもそう考えると、とたんに双子である二人に悪い気がして居たたまれなくなる。自分はなんて器が小さい姉なんだ、と自己嫌悪にもなる。  ぎゅっと、抱えていた膝小僧を胸に引き寄せた。  そんな由衣に声をかけてきたのは、台所から切ったスイカを持ってきた万里(まり)伯母さんだった。背後に、従兄弟の三兄弟もいる。とたんに室内は、さらにやかましくなった。 「あれ、由衣ちゃんお腹でも痛いの?」 「なんだよ由衣、ゲロゲロぴ〜かあ?」 「こら! 変なこと言うんじゃないの!」  軽く小突かれた従兄弟を横目に、しぶしぶ由衣は母と妹たちがいる大きなテーブルに近寄った。
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